木崎 『日経ものづくり』編集長の木崎です。座談会で明日のものづくりを探る当コラムも今回で2回目。前回に引き続き,コンサルタントの大黒天馬氏(以下,大黒)と,同じくコンサルタントの勝力広志氏(以下,勝力)に登場いただきました。お二人ともよろしくお願いいたします。
 さて今回は,環境にスポットを当てたいと思います。

大黒 また唐突ですね(笑)。でも,ものづくりの明日を考える,となると欠かせないテーマの一つには間違いないです。

木崎 というのも,ことしの冬は妙に暖かいじゃないですか。これだけ気候が怪しいと,いやでも地球温暖化の影響を意識せずにはいられません。

勝力 ワイドショーなどでも話題として取り上げています。この前は,日本の南の地方の話だと記憶しているのですが,ひまわりが咲いている映像をテレビで紹介していました。まだ2月だというのに。

木崎 米国の元・副大統領アル・ゴア氏の書いた環境問題に関する著書「不都合な真実(An Incovenient Truth)」がベストセラーとなり,また同タイトルの映画も各地で話題になるなど,世間の環境に関する意識が急速に高まってきたのではないかと思っています。
 今回は,環境というキーワードだけではあまりに漠然としているので,地球温暖化対策の大きな比率を占める,自動車から排出されるCO2の削減に焦点を絞って議論したいと思います。

大黒 先日,経済産業省と国土交通省より新しい燃費基準が発表されましたね(発表資料)。それによると乗用車については2015年度までに2004年度実績値と比べて23.5%燃費を改善しなくてはならないとのこと。達成するにはかなり厳しい数字になると言われています。

木崎 個人的には,ガソリン車の性能向上よりも電気自動車や燃料電池車に期待したいところです。私は自分で自動車を所有していないし,もし購入しようとしても自動車にはそれほどこだわりがないので,安くてそこそこ走れば何でも良いって,考えちゃうのです。電気自動車や燃料電池車が本格的に普及して,価格も下がったら,そっちを買おうかなと。多分,煙っぽくないでしょうし。

大黒 そういえば,「女子大生が好きなのは赤くて大きいクルマ」,というブログを以前に読みましたが,木崎さんの意見はどちらかというとそちらに近いのではないですか(笑)。私なんかは,車が電気で動く,なんて聞くと,正直乗りたくないです。私が車から連想する単語は,スピード,シフトダウン,コーナーリング,スキール音などなので,やっぱり車はガソリンの匂いがしないと。まー,それは感覚的な話としても,トルクとか加速とかには疑問が残ります。乗り味というか,小気味良さがなくなってしまえば,自分にとって車に乗る動機の多くが失われてしまうような気がします。だったら電車でもいいかなって。

勝力 私も個人的な感性としては大黒さんと同意見です。少なくとも私の周りを見渡すと,大黒さんと同様の感覚が大多数派だと思います。それを裏付けるように,イチローが出演している新型スカイラインのコマーシャルも感性に訴えています。加えて,社会的インフラや技術的動向から考えて,これからもしばらくはガソリン車が前提となりそうです。もちろん,ハイブリッド車や電気自動車,燃料電池車に全体的にシフトしていくのは間違いのないところだとは思います。ただ,航続距離の短さなどの技術的な課題や電力供給源など社会インフラ的な課題も多く,電気自動車や燃料電池車を一般消費者が当たり前のように乗りこなすには,しばらく時間がかかると思います。ここではガソリン車からのCO2削減に話を絞ってもよいかと思います。

木崎 すみません,自分で言い出しといて何なのですが,日産自動車は2050年時点でもエンジン搭載車が半分弱ぐらいは占めると予測していると,弊誌の記者も言っております。そう簡単にすべての自動車が電気自動車などへシフトするわけでもなさそうです。やはり,各自動車メーカーにはガソリン車の燃費改善にがんばってもらわないといけないみたいですね。

勝力 ただ,これまでも各自動車メーカーは,燃費向上に対して努力をしてきたわけで,急速な燃費の改善は望めそうもないのが現実です。何かイノベーション的な技術開発を期待したいところです。そのあたりの技術開発は自動車メーカー,自動車部品メーカーにお任せするとして,これからの燃費向上への取り組みというのは,運転するドライバーを含め,ユーザーの意識を改革することが,より重要な位置付けの一つになると思うのです。

木崎 ユーザーの意識改革にも,車を購入する場面,車を走らせる場面,ガソリンを補充する場面,車を保守する場面など様々な場面があると思います。まずは,自動車を購入する際に,なるべく「環境に良い自動車」,具体的には「CO2の排出が少ない自動車」を選択するように仕向けるべきでしょうか。

大黒 それは必要かもしれませんが,販売されている自動車はすべて環境基準を満たしているわけです。果たしてその中からより環境にやさしい自動車を選ぼうとする消費者がどれだけいるでしょうか? 自動車を選ぶときに一般的に評価する指標といえば,スペースやスタイル,性能,価格,燃費,税金などの維持管理コストなどが思いつきます。もちろん,どの指標を優先するかは千差万別でしょうけれど,私だったら性能とスタイルを最優先します。もちろん,それは個々の判断ですが,ここで言いたいのは,これらの指標の中において環境がどれだけ優先されるのか,と言うことです。

木崎 環境にやさしいというのは,自動車を購入する上では,決定打にはならないということですね。

大黒 もちろん環境問題に対して意識が高い方は,それを優先すると思います。プリウスの売れ行きが好調のように。ただ,多くの人にとっては現状では決定打にはなりにくいと思うのです。もっとも,雑誌やテレビなどのメディアが,もっと環境問題に対して訴えかければ,環境という指標が市民権を得るのかもしれませんが。

勝力 環境に貢献する事が,消費者にとってどれだけ利益を生むのか,自分達の子供たちに何を残して上げられるのかを,今以上に訴えていく必要があるのかもしれませんね。結果として,身近な努力,私達でも出来る努力として燃費という指標に言い換える事ができないものでしょうか? この間,ホンダのサイトを見ていたら,同社の車種をいろいろな分類に分けて紹介するページの中に,タイプ別や価格帯別,乗車定員別などと一緒に燃費別というのもあったのです。要は燃費の良い順に,ホンダの車が並べて紹介してあるのです。さらに同社は,CMでも宣伝していますが,燃費の良い運転をしていると「ECO表示灯」が点灯する車種も用意しています。これはひとえに消費者へ環境意識を促す重要な指標として有効だと感じました。

大黒 車を走らせていても燃費は気になりますよね。私なんて,ガソリンを入れる時はいつも燃費を頭の中で計算しています。今回は市街地を走ったから燃費が悪かったとか,高速で遠出したから燃費が良かったなとか。

木崎 でも,それで「今回の走りは環境に良かったな」とは,大黒さんも思わないのじゃないですか。どちらかというと,今回は財布が助かったとか,支出コストを意識するから,燃費が良い走りをしようとか,あるいは自動車を購入する場合でも燃費の良いものにしようとか思うのが,普通なのではないでしょうか。

大黒 そうなんですよ。私が最近疑問に思っているのは,いろいろな場面で環境性能を評価する指標を目にするのですが,どの指標もよく分からないというか,どうも一般消費者にとってみるとピンとこないのではないかということなのです。たとえば,よく欧州では「1キロ当たりのCO2の排出量」という指標が使われます。“環境への影響=CO2の排出量”と考えれば直感的で理解しやすいのですが,CO2はガソリンと違ってコストという感覚では捕まえにくい。よって実生活と直結しないのでピンとこない。その点,日本は先の経済産業省と国土交通省が発表した基準のように,燃費で環境への影響度を評価するので,まだ分かりやすいですよね。

木崎 ただ,やはり地球温暖化防止のためには,CO2削減ということに理解を深めてもらい,一般消費者に協力してもらわなくてはならない。そのためには,ドライバーにCO2削減の必要性を肌で感じてもらう必要あるのではと思いますが。

勝力 何かこのままだと,CO2もNOXとかSOXとかと同じように,他人事のような位置付けに終わってしまう危険性もありそうですね。そうなると,本当に地球温暖化は止まらなくなってしまいます。

大黒 短絡的ですが,「CO2排出税」を徴収するのはどうですかね。燃料費に税を掛けるのか,それとも自動車を購入する際に掛けるのかは議論の余地がありますが,やはり,ガソリンに課税するのが,直感的にコストと環境がつながりやすいでしょうね。

木崎 でも,そういう税制って日本以外でもできるんでしょうか。これからは,どっちかというと中国とかインドとかの方が,自動車大国として,CO2の排出量はどんどん増えていきそうですから。

大黒 そうなってくると,やはり環境への指標をユーザーの購買判断の決定打にする必要がありますね。しかも国ごとの施策に依存する税金ではなく,純粋に技術として。

勝力 私がもう一つ,燃費改善というと思いつくのがインフラです。自動車の走りそのものを考えたとき,道路というインフラを起点に考えてみるのも意味があると思います。

大黒 なるべく最適な摩擦の起きる路面状態を維持できるようにするとか,あるいは急な坂道を減らすようにするという視点ですね。

勝力 そういったハード的なことと同時に,交通量をコントロールすることも有効かと思います。交通渋滞を減らせば,CO2を排出する自動車を減らせると同時に,自動車がスムーズに走れることで燃費が改善できます。無駄な信号を減らすだけでも燃費は変わってくると思うのは私だけでしょうか。

木崎 現在,東京では交通渋滞や大気汚染の著しい地域に課金するロードプライシングを検討しています。都内で走る自動車の平均走行速度をちょっと上げるだけで,かなりのCO2排出量が抑えられるようです。ただし,通行料や対称区域の設定など,まだ課題が多いようなので,早期の実現は難しそうです。

勝力 個人や国家間での環境意識にバラツキがある中では,グローバルでの対応も含めて,政府のリーダーシップと実行力で,ユーザーの意識改革を大いに推進してほしいものです。


【今回の要旨】
 ■自動車からのCO2排出をどのようにして減らすか
   →電気自動車などへシフトするもガソリン車に根強い人気
   →消費者にCO2排出を強く意識させられる評価指標が必要
   →交通量のコントロールは政府に期待