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「唯一可能な方法」を合理精神で追及~硫黄島決戦と栗林中将から学ぶ・その2

史上最悪のプロジェクトに挑む

2007/01/31 12:14
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 時間が経つのは早いもので、昨年12月6日付の本欄に『史上最悪のプロジェクトに挑む~硫黄島決戦と栗林中将から学ぶ・その1』と題したコラムを掲載してから2カ月近くが経過した。この間、「その2」を書こうとしたものの、なかなか筆が進まず悶々としているうちに、2007年を迎えてしまった。1月末にこう書くのはおかしいが、まずはTech-On!読者の皆様に対し、「本年もよろしくお願いします」と申し上げたい。

 前回のコラムを書いた際、これから書こうと思った内容を整理し、メモにまとめた。大きく三点ある。

合理精神に基づく計画●史上最悪のプロジェクトと言うべき硫黄島の戦いで、プロジェクトマネジャ役を務めた栗林忠道陸軍中将が合理的に考え抜き、与えられた条件下で最善の計画を立てたこと。
鉄石の統率と敢闘精神●硫黄島の守備にあたった2万人の兵士に対し、栗林中将が厳しい要請を出し、兵士達がそれに応えたこと。
二面性を持てた理由●栗林中将が理詰めで考え抜くとともに、何が何でも日本を守るという気概を持っていたこと。

 これら三点は、早稲田大学文学学術院教授の留守晴夫氏の著書『常に諸子の先頭に在り 陸軍中将栗林忠道と硫黄島戦』(慧文社)および前回紹介した数冊の硫黄島戦書籍を読了後、筆者なりにまとめたものである。留守教授は同書の中で、栗林中将について「西洋的合理精神と封建的忠誠心をあはせ持つ『異形』の日本人であった」と指摘している。

 今回から本コラムを読まれる方もおられるかもしれないので、Tech-On!の主な読者であるエレクトロニクス技術者と、以上の三点との間にいかなる関係があるのか、改めて述べる。前回、硫黄島の戦いから二つのことが学べると書いた。一つは「困難なプロジェクトにどう取り組むべきか」であり、もう一つは科学や技術の導入を含む「日本の近代化を巡る問題を考える」糸口である。

 プロジェクトを成功させるために、プロジェクトマネジャとメンバーは、合理的に考えて綿密な計画を練る。そしてプロジェクトが始まったら計画通りであろうがなかろうが、何が何でもやり抜かなければならない。つまり、合理精神と敢闘精神という二面性が求められる。いきなり私事を書くが、筆者は2003年から2004年にかけて、あるプロジェクトに関わり、残念ながら成功できなかった。再起の可能性が皆無ではないので、失敗とは言わない。そのプロジェクトの経緯を振り返ってみると、綿密な計画が無かった上に、根性も足りなかった。自分の失敗を棚に上げて書くと、「立派な計画を立てたが、現場に計画を周知徹底できなかった」「メンバーの士気は旺盛であったが、計画がどうにも杜撰だった」といったプロジェクトが日本のあちらこちらで見られるのではなかろうか。

 西欧合理思考の精華である科学と技術を取り入れるにあたっても、二面性が欠かせない。すなわち、MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)の要諦はここにある。前回引用した留守教授の指摘を再掲する。

 我々は近代科學を生み出した西洋の思想的・文化的基盤の本質を願慮する事無く、自らに都合の良い「各分野を個々別々に」撮(つま)み食ひしてゐるに過ぎない。それゆゑ、理解は常に表面的であって、當然、傳統的な物の考へ方に本質的な影響をあたへるに至らず、その結果、自前の文化と輸入した文化とは無關係のままに併存し続ける事になる。

 ここで二面性とは、西欧の本質を理解した上で科学と技術を取り入れつつ、日本の「傳統的な物の考へ方」に欠陥があればそれを修整し、しかも「自前の文化」の守るべきところは守るという姿勢を指す。二つの文化が「無關係のままに併存し続ける」状態を肯定することではない。もはや、西欧の技術から美味しいところだけを取り出して一儲けし、後は「傳統的な物の考へ方」に従って日本の中でのんびり暮らす、といったことはできない。といって西欧べったりになってしまうのも、“日本万歳”になってしまうのも、ともに一面的であってこれまた問題を引き起こす。

 書くべき内容を三点に整理し、メモを作り、後は順番に書いていけばよいと思ったのだが、第二回分を書き上げるまで二カ月もかかってしまったのは、筆者の時間管理能力が無いからだが、前回紹介した硫黄島関連書籍に加え、さらにいくつかの関連書籍を読んでいたことも影響している。硫黄島を制圧した米国海兵隊についても勉強しないとまずかろうと思い、『アメリカ海兵隊 非営利型組織の自己革新』(野中郁次郎著、中公新書)、『アメリカ海兵隊式経営 最強のモチベーション・マネジメント』(デビッド・フリードマン著、ダイヤモンド社)の二冊を買い込み、続けて読んだ。「組織の自己革新」「モチベーション・マネジメント」とそれぞれ副題にあるように、これら二冊の著者は、海兵隊からマネジメントの要諦を引き出そうとしている。「軍隊式経営」と言うと、何も考えずに上司の命令通りに動く組織を思い浮かべるが、海兵隊が正反対の動きをする組織であることがよく分かった。ただし、フリードマン氏によると、海兵隊員はマネジメントという言葉をめったに使わないそうである。

 かなり以前に買っておいた本を読み返すこともした。硫黄島と並ぶ国土戦となった沖縄防衛戦を知るために、『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎著、中公文庫)を引っ張り出した。この本はかなり有名であり、読まれた読者も多いと思う。実を言うと、一度読み通そうとしたが挫折した経緯があった。確かに名著なのだが、日本軍の非合理性を示す事例と分析が延々と続くので、“プロジェクト失敗者”の筆者としては自分のことを書かれているように思え、段々辛くなってくるのである。

 さらに『日本人と近代科学 西洋への対応と課題』(渡辺正雄著、岩波新書)を“発掘”し、読了した。きっかけは、『常に諸子の先頭に在り』の中で、留守教授がこの本を紹介していたことだ。題名を見て「学生時代に買ったのでは」と思い、実家に戻った際に家捜しをしたところ、20数年ぶりに掘り出すことができた。先に引用した「我々は近代科學を生み出した西洋の思想的・文化的基盤の本質を願慮する事無く、自らに都合の良い『各分野を個々別々に』撮(つま)み食ひしてゐるに過ぎない」という指摘は、『日本人と近代科学』に拠っている。発掘ついでに、同じく渡辺正雄氏が書いた『近代科学の成立とその背景』(日新出版)という本も見つけた。コンピューター産業を担当する記者になって、20年あまり経験を積んだ今、渡辺氏の本を読み直すと、啓発される点が多々あり、色々と発見があった。「日本勢がなぜコンピューター・アーキテクチャーを創出できないのか」という命題を長年考えていたが、渡辺氏の本を読んでようやく理由が分かった。この点については別途、稿を改めて書いてみたい。

 クリント・イーストウッド氏が監督した映画『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』は昨年10月と12月にそれぞれ封切られ、ともに評判となり、二本の映画がきっかけとなって、硫黄島関連の本やムック、雑誌が続々と発売された。前回紹介できなかった本として、『十七歳の硫黄島』(秋草鶴次著、文春新書)、『硫黄島戦記 玉砕の島から生還した一兵士の回想』(川相昌一著、光人社)、『硫黄島の兵隊』(越村敏雄著、朝日新聞社)がある。題名からお分かりのように、硫黄島の最前線にいた兵士の方々の回想記である。復刻されたものもあれば、今回初めて本になったものもある。いずれも貴重な証言であるが、本コラムではおそらくあまり取り上げないと思う。

 前述したように、筆者はプロジェクトマネジメントあるいはMOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)を成功裡に進めるために、硫黄島決戦から学ぼうとしている。「史上最悪のプロジェクトに挑む~硫黄島決戦と栗林中将から学ぶ」と題した所以である。したがって現場の兵士の方々よりも、プロジェクトマネジャである栗林中将に注目せざるを得ない。だからと言って、栗林中将を英雄視し、2万人の戦死者と少数の生還者の方々を軽んじる意図はない。

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