「日本の正月」の風物詩のようになった箱根駅伝。特にマラソンが大好きなわけでも,出場選手を知っているわけでも,出身大学が出場しているわけでもないのに,ついつい見てしまう。「山の神,ここに降臨!」というアナウンサーの絶叫に苦笑しながらも,箱根の坂を必死に登っていく選手を手に汗握って見つめた。と同時に,合間に流れるビールのテレビCMの映像が美しくて,これにも見入ってしまった。

 ほかのCMも久々にじっくり見たのだが,最近のCMはなかなか工夫して作られているものだと感心した。内容としては,環境への優しさ,品質の作りこみ,さらには「ものづくり」をアピールするものが多いようだ。運転の仕方で燃費が変わるとエコドライブを推奨する自動車メーカー,「品質は作る人の想いから生まれる」と製造工程を紹介する化粧品メーカー,「ものづくり魂で頑張る」と現場の技術者が宣言する自動車メーカー,原料から「自分でつくるしかない」とミュージカルで合唱するビール・メーカー…。

 そのミュージカル仕立てのCMによると,このビール・メーカーは旨いビールを作るために,理想的な麦やホップを探したが見つからなかったので,自分で作るしかなかったのだという。ビール・メーカーの社員が総出でこう歌う。


いい麦がなかったらどうするの
いいホップがなかったらどうするの
仲間と一緒に畑からつくるしかないつくるしかない
つくるしかないよないものはつくるしかない
つくるしかない

 「つくるしかない」と繰り返す合唱を聴いていて,ふと「これは垂直統合モデルじゃないか!」と思った。正月早々,ビールのテレビCMを見ながらこんなことを考える筆者は相当ヘンなのかも知れないが…。

「垂直統合」で強みを発揮する米Google社

 そして「垂直統合」ということで思い浮かべたのが,今や飛ぶ鳥を落とす勢いの米Google社である。インターネット上のサービス事業を手掛けるGoogle社は,一見「水平分散モデルの旗手」のように見えるが,実は「垂直統合」で強みを発揮している会社である。

 例えば,日経エレクトロニクスの前編集長で現在はITproと日経コンピュータの発行人の浅見直樹が「Googleの伝導師」ともいうべき梅田望夫氏に1年ほど前にインタビューした記事に,次のような一節がある(同記事はこちら)。

浅見 (Google社は)「ネットを使うだけの会社」じゃない,つまりコンピュータを売らないコンピュータ会社ということですね。

梅田氏 まさに垂直統合型のコンピュータ会社といえます。全部,自分でやろうとしている。 原発のような巨大設備を自前で運営する電力会社のようです。ですから私はGoogleのコンピュータを「情報発電所」と表現しているわけですが。コンピュータの放熱・冷却という問題から,バックエンドの広帯域ネットワークの整備まで自ら手がける。

 同社のデータセンターがどこにあるのか,それは機密事項ですが,約30万台のサーバーがあり,その10%のマシンが故障しても支障なく動き続けるといわれています。そんなことを実現するには,水平分散型のアプローチでは限界がある。

 箱根駅伝の合間に流れるCMを見てGoogle社を連想してしまったのにはわけがある。その直前に,三菱UFJキャピタル投資調査部長の田村與司光氏が書いた「ネットワークが半導体産業を変質,事業モデル再構築は避けられない」(日経マイクロデバイス誌2006年11月号pp.78-81)という論文を読んだからである。

付加価値の源泉がPCからサーバーへ

 同論文は,株価の推移から見てGoogle社の方がMirosoft社よりも高い評価を受けており「勝ち組」になったとしてその理由を分析する。Microsoft社がパソコン・ユーザー向けに有料のソフトウエアを提供してきたのに対して,Google社はインターネット上でアプリケーション・ソフトウエアやコンテンツといったサービスを無料で提供して広告モデルで収益を上げる戦略が当たったのである。田村氏は次のように書く。

 ここで重要なことは,こうしたサービスの処理を受け持っているのが,ユーザーの持つPCではなく,Googleが保有しているサーバーという点である。つまり,サービス向上に伴って性能向上が求められるのは,PCではなくサーバーになる。(中略)PCに代わってサーバー側には,高い性能が求められるようになるが,ここに搭載するマイクロプロセサも高性能化が進みにくくなる。今後主力となるサーバー・システムは,数十~数十万といった多数のPCをグリッド(碁盤目)状にネットワーク接続したものになり,各サーバーにはそれほど高い処理能力は求められなくなるからである。

 こうしたネットワーク化の流れは,半導体産業のみならず電機産業全体のビジネス環境を変質させつつある。その変化とは,パソコンから既存の付加価値を奪い,サーバー側へ移行させることのようである。

 パソコンに求められるのはWebブラウザ・ソフトウエアを動作させることだけであり,パソコン・メーカーは性能面で差別化して付加価値を上げるというのが難しくなる。パソコン分野で勝つための条件は,ブランド力をつけるか,極端に安価にすることしかなくなる,というわけである。

部品メーカーも巻き込むパラダイム変化