先週の11月16日,今年も「ものづくりパートナーフォーラム2006」が盛況のうちに終わった(写真)。いつもながら,このフォーラムを見させていただくと,日本のものづくりの競争力の原点は,中小企業が培ってきた成形・加工・金型技術であることが実感される(ものづくりパートナーフォーラムの「歴史」を書いた以前のコラム)。

 昨年は終了後の懇親会で,ある冷間鍛造メーカーの方と話し込んだのだが(Tech-On!の関連記事),今年はプレス加工メーカーの社長と懇談させていただいた。国から表彰されたこともある高い技術力を持った中小企業の社長さんである。その会話の内容を対話形式でお届けしたい。

筆者 いつもご参加ありがとうございます。今回の展示,従来の工法を抜本的に変えるもので大変面白いと思いました。反応はいかがでしたか?

社長 いやあ,まだまだです。次回はお客さんがもっと感動するものを持ってきますよ。

筆者 感動…ですか?

社長 ええ,自分が一生懸命考えて,丹精込めてつくったものを並べて,お客さんがどの程度感動するかを確認する場だと思っています。それこそ自分の展示品にお客さんがそっぽを向いて,隣のブースに人だかりができた日にゃ,一日針のむしろですよ。帰りには落胆することの連続です。「次回こそお客さんをアッと言わせる素晴らしいものを持って来るぞ」と心に誓ってトボトボと帰るんですね。そうやって,「次こそは次こそは」の連続で,ここまで来た気がします。

筆者 なかなか厳しい場なんですね。

「自分を鍛える道場」

社長 ええ厳しいですよ。辛いですよ。私はこのものづくりパートナーフォーラムを自分を鍛える道場だと思っています。自分の商品をこうして並べて,一日座ってじっとお客さんの反応を見ていると,「自分はこれまでどんなものをつくってきたのか」が見えてくるんです。

筆者 社長自ら丸一日…ですか。

社長 従業員に任せていてはダメなんです。社長自らが丸一日とにかくここにいることが大切なんです。そうすると,単に図面どおりのものを寸分たがわず作ったものを並べたってお客さんは感動しないということが分かってきます。どうしたらお客さんが感動するのか,だんだん見えてくるんです。

筆者 どのような感じに見えてきたのですか。

「革新のネタは無限にある」

社長 まだこれからのところもありますが,少しずつ分かってきたという感じでしょうか。私がこれまでの何十年という経験から積み上げてきた技術の蓄積の中からアイデアと創造力を総動員して新しい「組み合わせ」を発見し,今まで不可能だと思われていたものをつくっていく。これがお客さんの感動を引き出すのではないかと思っています。例えば,今まで別工程として旋盤でつくっていたものを金型の中で一発で(1工程で)加工し,5円かかっていたのを2.5円で済むようにすれば,新たな世界が拓けることになります。

筆者 なるほど,加工技術の革新といえば高速や高精度に目が向きがちですが,工法そのものを変えることによって新たな付加価値を生むということですね。そうした革新のネタは数多くあるということでしょうか。

社長 (テーブルの上にあった栓抜きを手にとって)これはダイカストか何かでつくられているのだと思いますが,プレス成形とか違う工法に変えることによって価格を劇的に下げられれば新しいマーケットをつくれますよね。人間が生きて,生活していく中で必要なものはたくさんあります。しかも「これはこの方法でつくる」と常識化しているものが多い。その常識を覆すのです。革新のネタは無限にあると思っています。

筆者 高速・高精度にはあまり興味がありませんか?

高精度化は機械を買ってくればできる