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HOMEスキルアップマネジメント谷島宣之の「さよなら技術馬鹿」 > 95年前に漱石が憂いた「技術がもたらす神経衰弱」

谷島宣之の「さよなら技術馬鹿」

95年前に漱石が憂いた「技術がもたらす神経衰弱」

  • 谷島 宣之=日経ビジネス・日経コンピュータ・ITpro 編集委員
  • 2006/09/29 14:17
  • 1/2ページ

 読者の皆様、本コラムの執筆を長らく休んでしまい申し訳ございません。さぼっていたわけではなく、あるテーマについて本を数冊読み、長い文章を書こうとしたところ行き詰まったというのが実態です。内容を考えますと、そのコラムは8月半ばに公開すべきものでありましたが果たせませんでした。ただ、今秋から年内にかけて話題になるテーマでもあるので、なんとか10月には公開できるよう努力致します。

 沈黙の間、鬼編集者の赤坂嬢から厳しい催促メールを何通かいただき、心苦しかったのですが、ついに先日、通常とはうってかわった、しみじみした文面のメールが赤坂嬢から送られて参りました。筆者は、怒鳴られたり命令されるとかえって意固地になる性格ですが、切々とした物言いには打たれやすいのです。だからというわけではないのですが、準備していた長編とは別のコラムを執筆しました。慣れない「ですます」表記はここまでとし、以下は通常の「である」を使った文章に戻します。

 9月8日、通常とは違う路線の電車に乗って帰宅する途中、乗り換え駅近くにある書店に初めて入り、一冊の本を買った。夏目漱石の『私の個人主義』(講談社学術文庫)である。以前から読もうと思っていたのだが買いそびれていた。夏目漱石が行った五つの講演内容が納められている、本文150ページ、660円(税別)の文庫本である。いずれも非常に大きな問題を実に分かりやすく説いている。未読の方はぜひ一冊購入することをお薦めする。

 同書の中で漱石は「複雑な内容を纏め得る程度以上に纏めた簡略な形式にして見せろと逼(せま)られるのだから困ります」「門外漢であるがために、(中略)上下とか優劣とか持ち合せの定規で間に合せたくなる」などと述べている。筆者は記者の仕事をしているが「要するに一言でまとめると何なのだ」「白黒をはっきりさせろ」と先輩から叱られ続けて育った。このため、つい「複雑な内容を簡略な形式に」したくなってしまう。実際、ある程度まとめないと話を進められないので、漱石が行った一連の講演の主題を「近代化が日本人にもたらす弊害の指摘」とし、書き進めたい。

 漱石は明治44年(1911年)8月、明石・和歌山・堺・大阪の四カ所において講演をした。四講演の内容はすべて同書に収められているが、Tech-On!読者にお薦めしたいのは『現代日本の開化』と題された和歌山における講演内容である。今回は、この講演内容を中心に紹介するが、筆者の「持ち合せの定規」で計った要約にならざるを得ない。関心を持たれた方は、原著にあたっていただきたい。

 開化とは近代化のことである。漱石は「人間活力の発現の経路である」と定義し、活力の発現には二通りあるとする。活力節約と活力消耗である。前者は、仕事の効率化とか無駄の排除を指す。後者は「自ら進んで強いられざるに自分の活力を消耗して嬉しがる方」であり、一言で言えば「道楽」である。漱石は、文学も科学も哲学もすべて道楽の発現に過ぎないと述べている。

 二つの開化のうち、特に活力節約の開化を支えるのが技術である。漱石は技術という言葉を使っていないが、「怪物のように辣腕な器械力」と呼び、活力節約の開化についてこう語っている。

「出来るだけ労働を少なくしてなるべく僅かな時間に多くの働きをしようと工夫する。その工夫が積り積って汽車汽船は勿論電信電話自動車大変なものになりますが、元を糺せば面倒を避けたい横着心の発達した便法に過ぎないでしょう」

 漱石は怪物が育ったおかげで遠方まで講演に出かけられるようになったと嘆息し、『文芸と道徳』と題した大阪における講演では、「汽車電話の世の中では既に仙人その物が消滅したから、仙人に近い人間の価値も自然下落して、商館の手代そのままの風体を残念ながら諸君の御覧に入れなければならない始末になります」と言って聴衆を笑わせている。

 いったん開化すると元には戻れない。漱石は日本の開化の課題を指摘しただけで、元に戻せとは言っていない。課題の一つは、開化によって生活の程度はよくなったものの、「生存競争から生ずる不安や努力に至っては決して昔より楽になっていない。否昔よりかえって苦しくなっているかも知れない」ことである。

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