液晶パネルそのものについては韓国,台湾勢に押されているものの,それに使う材料では日本メーカーは高い競争力を持っている(Tech-On!の関連記事1)。自動車では,最終製品でも競争力が高いのだから,自動車向けの材料では日本メーカーはとてつもなく強いに違いない---。そう考えながら先週の7月14日,東京駅から新幹線に乗った。行き先は名古屋だ。日経Automotive Technology誌と日経ものづくり誌主催のセミナー「AUTOMOTIVE TECHNOLOGY DAY 2006 summer クルマの軽量化・コスト削減を達成する材料・加工技術の最前線」に参加するためである。しかし,セミナーが始まって講師の方々の話を聴くうちに,どうも様子が違うことに気付いてきた。新素材や新工法の採用事例として紹介されるのは,欧州の自動車メーカーの例が多いのである。

 午前中は,GEプラスチック-オートモーティブのアプリケーション・ディベロップメント・スペシャリストである菅原誠氏の「エンジニアリングプラスチックを活かした自動車外装材の軽量化」の講演を聴かせていただいた。先進的なプラスチックの採用例として同氏がまず紹介したのが,古くは「smart」(Daimler Chrysler社),最近では「Zafira」(写真1)(ドイツOpel社)といずれも欧州車である。

【写真1】新型「Zafira」上からのビュー
【写真1】新型「Zafira」上からのビュー (画像のクリックで拡大)

 このうち「Zafira」の場合,ガラスをポリウレタン製の基材で挟み,さらにポリカーボネート製のフィルムをラミネートした構造のパノラマルーフが採用された(Tech-On!の関連記事2)。このパノラマルーフはモジュール化してあり,内装部分には収納ボックスなどを一体化している。

 モジュールを生産しているのはドイツWebasto社である。長さが約2mもある大きなモジュールなのだが,大型の塗装設備を同社は持っていなかった。新たに導入するとなると莫大な設備投資が必要になる。このため同社は,ガラスとのマッチングを考えて光沢性のあるポリカーボネートフィルムを採用し,無塗装のラインとしたのである。

 また菅原氏は今後の新しいプラスチック化の方向としてガラスを代替する樹脂ガラスが有望だとして,最近の動向を紹介した。ポリカーボネート樹脂とコーティング層から成る樹脂ガラスは,軽量でデザイン性に優れるものの,耐傷付き性などに問題があった。最近では,コーティング技術が進歩してきて,ガラス代替として使おうという機運が高まってきているという。

5ドアなのにクーペのような外観

 菅原氏が樹脂ガラスを乗用車に採用した最近の例として挙げたのが,スペインSeat社の新型「Leon」である。リアクオーターガラスに樹脂ガラスを採用し,外からドアノブを見えないようにすることで5ドアながらクーペのような外観とした。


【写真2】「Leon」フロントビュー
 
【写真3】リアのドアハンドル

 写真3に見るような,手が入るくぼみをガラスに付けるのはデザインの自由度が高い樹脂でなくては無理である。2色成形によって,ドアハンドルの取り付け部を一体成形しているという。

 もっともこうした新素材の採用例は欧州メーカーだけではない。菅原氏は,日本メーカーが樹脂ガラスを採用した例も挙げた。ホンダが,2006年1月に発売した欧州向けの5ドア「Civic」(写真4)のバックドアを構成する透明外板部品に樹脂ガラスを採用したのである。スポイラーやハイマウント・ストップランプのレンズ部が一体成形されている。ただし,この車種は欧州市場向けで日本市場にはまだ登場していない。これはつまり,日本メーカーが新素材の採用に慎重と言うよりも,欧州の顧客の志向が新素材の採用を促しているという意味もありそうである。

【写真4】新型「Civic」リアビュー
【写真4】新型「Civic」リアビュー (画像のクリックで拡大)

 プラスチックでは欧州メーカーに先行されていても,金属系の新素材ではどうなのだろうかということで,今度はマグネシウム合金などのダイカスト製品を手がける旭テック 開発統括部 基礎研究部長の山田徹氏の講演を聴かせていただいたが,この分野ではさらに欧州メーカーに水をあけられているようだ。

 まず山田氏は,自動車1台あたりのマグネ合金の使用量を見ると,北米が平均して約4kg,欧州が2kg,日本が1kgと,日本が最も少ないというデータを発表した。さらにマグネ合金の技術面でも欧州が最先端を行っており,旭テックはマグネ合金ダイカストの製品化に当たって1999年に欧州に調査団を派遣して,ダイカストマシン,給湯装置などを選定し,加えてダイカスターを訪問して生産システムについての知識を仕入れてきたほどである。

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