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オムロンの秘密は「空飛ぶ製品」にあり

大黒 天馬=ITコンサルタント
2006/07/12 16:20
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 今回は『日経ものづくり』7月号の特報「高収益オムロンが上海でJIT生産するワケ」を取り上げる。この記事の中でオムロンは,在庫管理を営業部門など他部門に任せずに,工場が主導する生産革新手法FMI(Factory Managed Inventory)を実践している,と紹介されている。この事例から,製品在庫を後補充する手法の裏側に迫りたい。

製品特性とオムロンの取り組み

 最初に,製品を高級品と汎用品に分けて,一般的に考えられるそれぞれの製品特性を表1にまとめてみた。


●表1 高級品と汎用品の製品特性(表はクリックすると拡大します)

 今回のオムロンの事例から分かることは,オムロンは幅広い需要が見込める汎用品(売れ筋)をターゲットとして中国上海市に新会社「オムロン(上海)有限公司(以下OMS)」を立ち上げ,この汎用品に求められる特性,つまり「安く・早く・柔軟に」に挑戦しているのである。そしてOMSでは,(1)購買調達におけるVMI(Vendor Managed Inventory)(2)変種変量,混流,JIT(Just In Time)などの生産方式——を駆使し,コスト競争力の強化やリードタイムの短縮に取り組んでいる(図1)。


●図1 OMSの工程群と改革への取り組み(図はクリックすると拡大します)

在庫で時間短縮を図る

 これらの改革の中で,VMIの役割を再確認してみたい。VMIの目的の一つに調達リードタイムの短縮が挙げられる。通常,部品を発注してから納入されるまでには,最低でも週単位の時間を要するのが現実である。さらに,電子機器や原材料などの場合,数カ月を要することも珍しくない。OMSが後補充生産などの生産改革を実践している中で,この長い調達リードタイムは致命傷に近い。そのため,VMIという形で部品在庫を確保し,“売れたものを,売れたときに,売れた量だけ造って補充する”と言う柔軟な生産に対応している。要するにベンダー責任で在庫を確保することにより,調達リードタイムの短縮を狙っているのだ。


※ 部品が使用された後に生産(後補充)するのか,使用される前に生産(前補充)するのかはVMIに保有する在庫量に依存する。よって,VMIへの部品補充が,必ずしも「売れたものを,売れたときに,売れた量だけ造って補充する」を実践している訳ではない可能性がある。

 ここで,VMIのように在庫のあるところを「在庫ポイント」と呼ぶことにする。

 もう一度,図1を見てほしい。OMSの工程群を見ると,VMIのほかに在庫ポイントが2カ所あるのが分かると思う。一つは工場から少し離れた倉庫にある「グローバル中核在庫」で,もう一つは世界の五つの市場(北米,欧州,中国,日本,中国と日本を除くアジア)のそれぞれに設けた在庫拠点「在庫センター」である。

 この2カ所の在庫ポイントに在庫を確保する理由も,やはりVMIと同じでリードタイムの短縮であろう。グローバル中核倉庫が狙うのは,生産から出荷までの製造リードタイムの短縮であり,在庫センターの狙いは製品物流の輸送リードタイムの短縮だ(図2)。結果,この3カ所の在庫ポイントが,購買調達から製品物流までのトータルリードタイムの短縮に寄与している訳だ。


●図2 在庫ポイントとリードタイム短縮の関係(図はクリックすると拡大します)

 無論,リードタイムの短縮だけではなく,OMSに近いグローバル中核倉庫に在庫を保有することは,工場の生産平準化にも寄与するはずである。そして,世界中の市場を網羅する形で配置されている在庫センターは,汎用品に要求される即納を実現するためには必要不可欠な存在でもある。

在庫削減に立ちはだかる地理的な制約

 一方で,キャッシュフローの視点で在庫ポイントを見ると,在庫ポイントに保管されている在庫は滞留資産であり,可能な限り削減したい。そのため,OMSは(2)生産改革によって,リードタイムの短縮を推進しグローバル中核在庫の在庫削減に取り組んでいるのだ。では,製品物流はどうだろうか。一般論から言えば,輸送リードタイムの短縮には,地理的な制約,つまり物理的な距離が遠いために,在庫センターの在庫削減には自ずと限界が生まれてくる(図3)。


●図3 地理的特徴を表現した工程群(図はクリックすると拡大します)

 海外への製品供給では,航空輸送か海上輸送のどちらかを使用することになるが,コスト面から船舶を中心に海外物流網を構築する会社が多い。その結果,例えば中国から世界各地へ船で輸送する場合,早くて1週間,遅ければ4週間以上の時間が必要となる。

 繰り返すが,汎用品の世界では“顧客は納品を待ってくれない”。納品遅れが,即,販売機会の損失となる厳しい市場の中で,製品の補充までに数週間の日数を要することは,(グローバル中核在庫ではなく)在庫センター自身にそれ相応の在庫量を確保しない限り,欠品の危険を回避できないことを意味するのだ。

輸送リードタイムを短縮する従来手法

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