大型連休しょっぱなの4月30日,NHKスペシャル「同時3点ドキュメント第4回・煙と金と沈む島」を見た。

 第一の舞台は南太平洋に浮かぶ海抜2mの島国,ツバル。地球温暖化の影響と思われる海面上昇が続いている。カメラは,そのための洪水に見舞われる島民の生活を追う。第二の舞台は中国,重慶。石炭を採掘する炭鉱と工場地帯を結ぶ機関車の運転手の生活を中心に,日本の商社が計画する温暖化ガス排出権を買い取るプロジェクトの様子を描く。第三の舞台は米国,ニューヨーク。排出権取引で儲けようと画策する投資ブローカーの活動を紹介する。

 3つの地域は一見関係ないようでいて,それぞれの場所で暮らす人々は「地球温暖化」というキーワードで複雑に絡み合っている,ということをこの番組は言いたいようだ。この3カ所に2月下旬から数週間にわたってカメラが張り付き,現地から時々刻々と届けられる生々しい映像に息をのんで見入ってしまった。

海に沈みゆく島

 2006年2月28日,ツバルに大潮が迫る。「海面上昇には負けない」と気丈に頑張っていたある島民も,さすがに床上まで押し寄せる海水に「自分は島に残るが,家族は離れた方がいい」とうなだれる。

 中国・重慶の炭鉱では,中国の急速な経済発展に歩調を合わせるように24時間体制のフル操業が続くが,さらに「今後4年間で3倍に増産せよ」との号令が下る。石炭を採掘すると,副産物として地球温暖化係数が二酸化炭素の21倍も高いメタンが発生する。増産に次ぐ増産によってメタンの発生も増える一方である。これに目を付けたのが日本の商社だ。

 2005年2月に発行した京都議定書では,割り当てられた温暖化ガスの削減目標を達成できない企業が,不足分を排出権として海外から購入できる「京都メカニズム」という経済メカニズムを導入している。

 そこでその商社は,炭鉱で採掘時に発生するメタンを使った発電所を建設することによって,メタンの放出量を抑えるプロジェクトを中国側に提案した。これによって温暖化ガス300万トン(t)分の削減効果があり,仮に1t分の排出権価格を約10米ドルとすると,35億円分の価値が創出できるという。

 このあたりの収支計算がどのようになっているのかの詳細は明らかにしていなかったが,35億円の価値の一部がホスト側の中国企業に渡り,日本の商社にとっても排出権を日本企業に売却することによって利益が得られる,ということのようである。

「世界で流通する排出権の半分は中国産になる」

 中国政府も排出権ビジネスのメリットに注目している。中国科学技術省のある担当者は言う。「中国は排出権の輸出大国になる。世界で流通する排出権の半分はやがて中国産ののもので占められるだろう」。

 重慶の炭鉱経営者も言う。「日本は我々のものを金を持って買いに来たのだ」。この炭鉱ではこうして排出権取引で得た利益を使ってさらに石炭の増産に乗り出す,と宣言する。

 中国は京都議定書に参加していないのになぜ排出権大国になれるのか。排出量削減の義務がなく,温暖化ガスも出し放題という地球温暖化対策とは無縁の状況であることがかえって,排出権という資源の大国になることを可能にしている,ということのようである。

 第三の舞台であるニューヨークでは,世界中から排出権を安く買い求め,必要とする企業に高く売ることで事業を拡大してきたという投資会社の社長の言動を紹介している。この社長は排出権価格の動きを常にウオッチしている。

 例えば,ドイツに大寒波がやってくると電力需要が高まり,電力メーカーが火力発電所の稼働率を上げるために石炭消費量を増やすと,削減目標が守れなくなるために排出権を購入する。すると排出権価格が上がるのである。また,ツバルが洪水に見舞われたり,サウジアラビアの原油施設が自爆テロにあったりといった危機感が高まるだけでも排出権価格は上がる。この会社はこうした価格の動きを察知して,安いときに買って,高いときに売って利ざやを稼いでいる。

「人間の良心だけでは温暖化は止められない」