2006年2月6日,文部科学省,経済産業省,仙台地域知的クラスター本部,情報・生命・未来型ものづくり産業クラスター協議会,循環型社会対応産業クラスター委員会が主催した「TOHOKUクラスターコラボレーション」(仙台・メトロポリタンホテル)で,『日経ものづくり』編集長の木崎健太郎が基調講演を務めました。その内容を紹介します。


 おはようございます。日経BP社,『日経ものづくり』の編集部におります木崎と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

 「日本のものづくり産業の競争力強化のために」ということで,基本的には私たちも,日本の製造業は,かなりいい時期になってきたなと思っております。ただ,そうは言いましても,次の課題というのも,少し見えてきたかなと思っております。

 次の課題といっても,なかなか簡単に結論が出るような問題ではございません。ですが最近,議論が始まったかなと思うようなことについて,いくつかお話をさせていただいて,解決に向けて考えるきっかけになればと思っております。

日本の強さは現場戦略と経営戦略の両立


 日本の何が強いのか,どこが一番強かったかというところで,その要因として挙げられるのは,基本的にはトヨタ生産方式に代表されますようなものづくりの考え方だと思っています。

 トヨタ生産方式で一番本質的なところはどこかというのは,一口で言うのは難しいのですけれど,こんにちの収益を上げるということと,明日の準備をやるということと,両方一度にやるということは,できるというところではないかなと思っています。


 技術者の方は忙しくて,目の前の仕事で手一杯で,明日からどうやって新しい方法でやっていったらいいか考えるのは非常に難しい。私は自分を振り返っても,なかなかそういうことはできないのですが,それをなんとかやれてしまうところに,トヨタ方式の強みがあるのかな,ここが一番大きいところかなと思っています。これは,一昨年にコンサルタントの金田秀治さんに,本誌にご執筆いただいた原稿の中で言っておられたことです。

 どうしてそこができるのかというと,現場は現場で頑張れる。経営の立場と,現場の立場とあって,現場は現場で「ダメモト」の活動で頑張れてしまうところに強みがあるのだと思います。

 現場の改善活動というのは,結局は「ダメモト」の活動が多い。もしかしたらうまくいくかもしれないからやってみるというような,気軽にやるのがいいなどということを言われますけれども,逆に言うと,これをやったからいくら節約できますとか,いくら儲かりますというようなことがはっきり言えないことが多い。経営者の方は数字で言えないことはなかなかできないですが,現場はそれができる,というか許されている。そこが一番大きなところではないかなと。ここを生かしているのがトヨタ生産方式だと思っています。

 とは言っても,現場は現場で頑張ればいいといっても,会社全体のことと無関係に動けませんから,そこで両方をうまい具合に見ているのが,日本の企業にいらっしゃるミドルの部長,課長あたりの方なのかなと。そこの層の厚さが,こういう現場と経営の両方をなんとなく目配りしながら改善を進めていくというところにつながっているのではないかなと思っています。

 いろいろな方もおっしゃっていますけれども,要は,愚直に「生産性を上げる」ということだけで切磋琢磨できる。必ずしも儲かるかどうかということが直接リンクしすぎていない。それがいいのか悪いのかという問題はあるのですが,少なくとも工場は工場として,ものづくり自体を極めていくという意識が強いというように思います。

 知恵を出させるとか,わざと困らせて知恵を出させるとか,異常が発生したら必ず止めなさいというようなことをいいます。止まると,非常にほかに迷惑がかかるものですから,なるべく止めないようにしようと努力するというように,そんなところで日本のものづくりの現場は,どんどん努力していくということだと思っています。

 ただ,なかなか実現は難しくて,真似もしにくい。日本のなかでも真似は難しいですけれど,外国が真似しようとしても,かなり難しいのではないかと思っています。

 これは,私も今興味を持っているところなのですけれども,外国でトヨタ生産方式みたいなものと同じことが本当にできるかどうか。これはできるという意見もありますし,できないという意見もありますが,出先,中国や海外の出先の工場で,日本と同じような,あるいは似たようなことをやらせようとすると,だいたい問題が起こるたびに日本から人が出かけていって,問題を解決して帰ってくる,その度に出張の費用や時間が掛かったりしているということを,いろいろと聞きます。

 日本と海外で,必ずしも同じことをやらなければいけないということでもないと,実は私は思っているのですけれど,いずれにしても,海外でトヨタ生産方式に限らず日本の生産方式に似たようなことをやるのは,かなり難しい話ではないかなと思っています。

小さい問題からつぶす