研究開発の専門化が進みすぎて研究開発担当者が孤立した状態になり,ほかの研究者や研究組織との情報交換が少なくなっている—という研究開発の「タコツボ化」が,本誌が経済産業省製造産業局と共同で実施した調査で明らかになった。この調査は,日本の強みといわれる「擦り合わせ」が研究開発においても本当に機能しているかどうかを検証しようとしたもの。擦り合わせのためにはさまざまな分野の研究開発担当者が互いに交流することが不可欠だが,現状では十分とはいえないようだ。


 研究開発担当者を対象に「情報共有の必要性」について聞いたところ「増加している」との回答が71.0%と多いのに対し,「減少している」はわずか4.4%だった。その状況下で,研究組織内での情報共有を個人的な取り組みとして実行しているとの回答が64.4%に上り,組織として制度やシステムがあるとの回答は約半数にとどまった(図1)。

 研究組織外との情報共有になると,個人的な取り組みとして実行しているとの回答が71.9%と増加し,組織的に制度があるとの回答は28.3%に減少。また異分野の担当者と情報共有しているとの回答も23.3%とわずかながら少なくなる(図2)。

 結局,情報共有は個人的な取り組みによるところが大きく,組織的な取り組みはあまり盛んではない。組織としての研究開発上のビジョンをはっきり示せているかどうかを聞いた質問では,ビジョンを明確に示している上に担当者間で共有できているとした回答が34.5%だったのに対し,ビジョンを示してはいるものの共有できていないとの回答が40.4%,ビジョンそのものを示していないとの回答は25.1%あった。要するに,担当者がバラバラに動いている研究開発組織の方が多いということになる。

 研究開発といえども,製品開発と同様に目標を明確にし,複数の担当者の力を結集する仕組みが必要と考えられる。(日経ものづくり2006年4月号に掲載)


【図1】

研究組織内での情報共有

異分野の部署の研究者との情報共有は少ない。「分からない」との回答(10%程度)は除いた数字。

【図2】

研究組織外との情報共有

異分野の研究者,海外の研究者との情報共有は少ない。「分からない」との回答(10%程度)は除いた数字。

【追加図1】

研究開発の広がり

研究開発の対象領域は非常に拡大している。さまざまな研究分野にまたがるテーマが増えているとも読み取れる。

【追加図2】

情報共有や意見交換の必要性

減少しているとの回答は非常に少ない。情報の交換や共有はますます重要になっている。

【追加図3】

研究開発のスピードアップ状況

「見切りをつけるまでの期間が短くなっている」も含め,大多数がスピードアップしていると解答。

【追加図4】

研究開発予算の制約

この5年間,厳しくなることはあっても緩くなることはなかった。

【追加図5】

自由な研究

現在でも,3割を超える回答者が業務上のテーマとは別に自由な研究をしていると回答した。

【追加図6】

方向性やビジョンの共有

示されていない,あるいは共有されていないとの回答が3分の2を占める。

【追加図7】

研究開発の数値目標

数値で目標を設定するのが難しい場合も多いと考えられる。何も言われないという回答が10%を超えた。

【追加図8】

報奨制度の状況

報奨制度がせっかくあっても,不十分と思われることの方が圧倒的に多い。

【追加図9】

業種別に見た研究開発組織内での情報共有

電機の方が,輸送機械よりもややオープンであると読み取れる。

【追加図10】

業種別に見た組織外との情報共有

「はい」「いいえ」で回答してもらったうち「はい」のみを掲載。電機の方がやや情報共有に対して積極的と読み取れる。

【追加図11】

業種別に見た研究開発予算の制約

全体的に予算に対する制約が増える中でも,輸送機械工業は制約が緩くなったとする回答が他の業種よりも多かった。

【回答者プロフール1】

研究開発における役割

回答者の4分の3は研究開発に関わっている。その中でも,第1線で実際に研究開発に携わっている人が多数を占める。。

【回答者プロフール2】

回答者の所属組織

大部分が民間企業。設計・開発,生産の部門で研究開発に関わっている人が多い。

【回答者プロフール3】

所属企業の規模

1000人以上の大企業が約半数。100人未満の中小企業は約16%。

【回答者プロフール4】

回答者の所属企業の業種

輸送機械工業は自動車関連が多いと考えられる。次いで電気電子,一般/精密機械と続く。