【続】価格下落曲線がコスト下落曲線と交わる時---クルマと家電の「違い」と「類似性」を読者と考える
前回のコラムで「クルマ」と「デジタル家電」を安易なアナロジーで論じたことは反省しなければならない。製品アーキテクチャ面でも,クルマは「摺り合わせ型」,デジタル家電は「組み合わせ型」と両極にある。ただし,クルマ業界は家電業界の「モジュールの手法」に,家電業界はクルマ業界の「コア技術をブランド価値向上に結びつける考え方」など,互いに参考になるところは多いはずだ。両者の「違い」と「類似性」をきちんと明確にしたうえで,良いところを学びあう姿勢が重要だと思われる。
前回のコラムで多くのご意見をいただいた。深く感謝したい。皆様の関心を引いたのは,価格下落とその理由としての開発リソースのかけ方について,デジタル家電と自動車を筆者がやや乱暴に比較したことの是非にあったようである。例えば,次のような意見だ。
■車と家電品を並列に論じるのは,無理があると思います。根本的に車という垂直統合型ビジネスと,家電やパソコンなどの水平分散型ビジネスでは,参入障壁の高さが全く違うということが考慮されていません。また付加価値の源泉が,車ではインテグリティ(高度に要素技術を統合すること)にあり,これは日本人の得意な「匠の技」が活きる領域なのに対し,家電やパソコンでは付加価値は「チップ」や「ソフト」にあります。つまり,半導体ベンダーやOSベンダー(家電にもOSはある)が儲かる構造になっているわけです。もし戦略的に本稿を論じるのであれば,最終商品にポジショニングし続けていること自体が間違っているような気がします。(2005/12/20)
ご意見を読ませていただいて,クルマと家電を並列に論じるのではなく,まずはきちんと違いを認識しなければいけないと思った次第である。おっしゃるように,自動車は「垂直統合型・インテグリティ」で,家電やパソコンは「水平分散型・チップ・ソフト」という根本的な違いがある。この違いはさらに言えば「製品アーキテクチャ」という概念を導入することで,より明確になるのではないかと思う。
製品アーキテクチャから見た「自動車」と「家電」の違い
「製品アーキテクチャ」の考え方については本コラムでも何回かとりあげているが(Tech-On!の関連記事1,Tech-On!の関連記事2,Tech-On!の関連記事3),ここで改めてその概要を確認しておきたい。
ここで言う製品アーキテクチャとは,製品で実現したい機能・性能を構成する部品にどのように配分するかという基本的な設計思想のことであって,それは2つに大別できる。すなわち,摺り合わせ(インテグラル)型と組み合わせ(モジュラー)型である。摺り合わせ(インテグラル)型の製品とは,特別に最適設計された専用部品を微妙に調整しないとトータルな性能が発揮されない製品である。一方,組み合わせ(モジュラー)型の製品は,既に過去に設計された標準・共通部品を部品間の標準インタフェースに沿って寄せ集めてもそれなりの性能が出る製品だ。自動車は擦り合わせ型,家電・パソコンは組み合わせ型のアーキテクチャということになる。
ご意見の通り,摺り合わせ型の製品には高度な「巧みの技」が要求されることが多く,参入障壁が高い。一方で組み合わせ型の製品は,商品企画力さえあれば比較的簡単に参入できる。自動車分野の方が,家電よりも参入障壁が高く,それだけ低価格競争になる可能性は低いと言えるだろう。
中国では自動車も「組み合わせ型」
ただ注意しなければいけないのは,このアーキテクチャは「時間」や「地域」によって変化するということである。例えば中国では,自動車分野でも新規参入が相次ぎ,低価格競争を繰り広げている。中国では,日本メーカーなどが開発した専用部品をコピーして汎用部品化してカタログにまで載せ,汎用部品の組み合わせで作れるようにしているのだ(Tech-On!の関連記事4)。つまり,汎用部品を買って組み合わせれば簡単に自動車を作ることができる。この結果,中国では同政府に登録されている自動車メーカーだけで110社を超え,オートバイに至っては400社を超える企業がひしめく状況になっている。
しかし,こうして作られた「組み合わせ型」の中国製自動車に対する中国人自身の評価はまったく低い。特に上海などの高所得者層が多くいる地域では中国製自動車の人気は最低で,日本や欧州メーカーの摺り合わせ型の自動車にブランド価値を認めている。今後,中国の国民の所得が上がるにつれて,いずれ自動車は摺り合わせ型になっていくのではないか。所得がある程度の層に向けた摺り合わせ型商品と低所得者層向けの組み合わせ型商品の両極に分離する可能性もあるだろう。
自動車という製品自体が持つ本質的な特性
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コンピュータの世界でも,PCが席巻する前は,汎用機が非コモディティな商売を展開していた。また,最近では,自動車などでも部品の汎用化が進んでおり,そういった部品に不良があった場合には,多くの車種に大量のリコールが広がることが多い。フォード系では,エンジン自体の共用化が進んでいるとも聞く。
要は,場合によってはモジュール利用もするし,また,場合によっては擦り合わせが必要になる場合もある,ということだろう。もっと大雑把に言うと,安くしたいならば,同じものを大量に生産し,それを利用する必要があるということだろう。職人がいちいち擦り合わせを行い仕上げていては,安く販売できる商品は出来上らない。
高付加価値のブランドを構築して非コモディティで勝負するか,部品の共用化,低価格化を推し進めて,大量販売に活路を見出すかは,販売戦略の問題である。それらを,商品名だけで括って論議することは危険だ。 (2006/01/04)
パソコンがAT互換機に収斂されていったのは,パーツメーカーのコストダウンが先行し,それらを組み合わせる方が本体メーカーの製品より安くなる,という状況が生まれたからではないでしょうか。
自動車メーカーも,エンジンなどの一部モジュールを外販していく動きは活発化してきています。ユーザーからは,不要な装備が多いという意見も聞かれます。(2006/01/02)
コモディティ化,コストダウンの構造は,「なるほど,そうか」と思いました。しかし,価格下落の構造については,車と家電で大きく異なるものとして,中古車市場を抜きに語るのは問題があるように思います。
また,車はその本質たる「移動の手段」という部分において,物理限界と法的な規制もあり,30年前も今も公道上でユーザーが享受可能な能力が数十倍/数百倍になっているということは無く,そのような古いモデルでも,移動において対応不可ということはないわけです。
各々の機器の成り立ち,開発スピードやコストダウンといった作り手側の状況は良く解かりますが,コモディティ化を考える上では,買い手側から見た市場構造などにも言及する必要があるのではないかと思います。(2005/12/29)
自動車は複雑ですから,部品・工程が多い。そのあまたある部品・工程のうち,コスト削減につながる画期的なイノベーションはごく一部。総コストに対する影響が小さい。一方,デジタル家電は比較的単純ですから,一つ二つの部品や工程でもコストイノベーションが起きると,総コストに劇的な変化が起きる。
コスト低下=価格低下は,技術者の誇りだと思います。価格低下で赤字になるのは,別の話になりますが,総合的な意味で経営の失敗です。(2005/12/27)
ユーザーの購買基準として,自動車はファッション性の要素が強く,デジタル家電は機能に重点があり,かつiPodなどの例でも分かるようにコンテンツを含めたビジネスモデル全体に基準があります。
自動車の機能は,「走る」「曲がる」「止まる」という3要素が満たされていれば良く,デザイン性以外では燃費くらいなものです。ハイブリッドが売れるのも,燃費という要素以外に「環境にやさしい」というブランド戦略にあると思われます。
車はどちらかというと,服などと同じ感覚で買っているのではないでしょうか。(2005/12/27)
一方,自動車の走行性能を高めるためには,モノコックシャーシを利用する必要があります。安全性能の主因でもあるため,モノコックシャーシの開発には費用と時間がかかります。ところが,モノコックシャーシは外観の大部分を決めてしまう部品であるため,デザインを差別化するためには,共用することができません。
実際,各自動車メーカーはエンジンなど他の主要部品については,複数の車種間で共用したり,フルモデルチェンジをしても同じ設計のものを流用したりしますが,モノコックシャーシはフルモデルチェンジごとに開発し直しです。これが自動車業界で水平分業が他業界ほど進まない一因です。
時計も,ムーブメントがほとんどの価値を決める機能優先の品ではコモディティ化が進みましたが,筐体が同程度,ないしはそれ以上に価値をもつ高級品ではコモディティ化はあり得ないのです。例え日本メーカーがムーブメントを外販していなくても,いずれどこかの国が外販し,機能優先品はコモディティ化したでしょう。(2005/12/27)
自動車は製品化のための技術ノウハウが膨大なため,まだ日本製が有利に見えるのでしょう。現在,アメリカではビッグ3が没落し始め,日本車が急成長しています。それは以前,繊維や家電で見られた現象です。自動車では,それが遅れてやってきているといえます。一方で韓国の現代自動車は,世界でホンダを抜いて急成長しています。また,日本ブランドの中国生産車が輸出に向けられるようになりました。
現時点で自動車と家電を同じ視点で比べるのは難しくても,時間軸をずらせば同じ経過に見えます。そのうち,中国製のトヨタやホンダに乗るのが普通になるかもしれません。
中国の若者は,非常に積極的に新技術を学び,研究しています。日本の教育の停滞は,やはり20年ほど前に騒がれたアメリカの教育環境に似ているように思えます。(2005/12/27)
パソコンなども「故障により被った経済損失を補償する」ビジネスモデルであれば,参入障壁が高く,価格の下落を食い止められたかも知れないと思います。責任範囲が小さい製品は,価格下落が激しいのでは。(2005/12/27)




















