シャープ片山氏「擦り合わせで勝負」

 私はまた今回の基調セッションをある問題意識を持って聴いた。以前のコラム(Tech-On!の関連記事)で「問題はパソコンが契機となって半導体やデジタル家電にまでモジュラー化の波が押し寄せているのかどうか,という点である」と述べたが,薄型テレビおよびFPDがモジュラー型(組み合わせ型)とインテグラル型(擦り合わせ型)のどちらなのかという点である。

 シャープの片山氏は,講演の中で「FPDテレビはカスタム性が高く,感性的な要求が厳しい商品である」と話していた。そうした要求に応えるために,シャープは開発技術と生産技術の両方に強みを持つ垂直統合型の戦略をとっているという。

 また同氏は,前述したフューチャービジョンにおける開発を「擦り合わせ型」と講演で表現した。こうしたことから考えて,亀山第2工場で生産されるような薄型テレビ,パネルは擦り合わせ度が高い,と見ていいだろう。薄型テレビの製品アーキテクチャが擦り合わせであれば,擦り合わせ型が得意な日本の製造業は「相性」の面から優位に立つとみることができるだろう。

SamsungのLee氏,「企業の総合力の勝負」

 一方,Samsung社のLee氏は講演で,前述したように薄型テレビ向けのパネル・ビジネスでは経営のルールが大きく変わったと述べ,そうした時代に対応するには「部品・材料・装置含めて,企業の総合力が重要になる」と述べた。

 企業の総合力強化の1つの表れが,部材・装置の韓国産化である。製造装置で見ると,2000年稼動の第4世代液晶パネル生産ラインではわずか30%だった韓国産化率が,2004年稼動の第6世代ラインでは50%を超え,2005年~2006年稼動の第7世代ラインでは60%にとなり,さらに2007年~2008年稼動の第8世代ラインでは70%に達する見込みである(日経マイクロデバイス2005年6月号p.33「韓国液晶戦略」参照)。部材についても,バックライト・ユニットやガラス基板などの大型部品から韓国産化が進んでおり,物流コストなどを含めて大幅なコストダウンを狙う。

 こうした韓国産化を進める一方で韓国パネル・メーカーは,前述したような第8世代ラインに採用するような先進的な生産技術の開発で,日本メーカーを含む国外の材料・部品・装置メーカーとの連携を深めている。日本の材料・部品・装置メーカーは,日韓両国のパネル・メーカーと共同開発する,という難しい立場に立っている。別の見方をすれば,キャスティングボードを握っている,とも言える。

 日本のパネル・メーカーの材料・部品・装置メーカーへの求心力が,同じ日本メーカーということからくる地理的・心情的な「擦り合わせ」開発だとすれば,韓国パネル・メーカーの求心力はパソコン向けパネルで勝利した余勢をかってシェア獲得にまい進する「規模」の力である。実際,30インチ型テレビ向けパネルにおける韓国メーカー2社(Samsung Electronics社とLG.Philips LCD Co.,Ltd.)の世界シェアは,2005年第1四半期に50%を超えた。

 大きな世界シェアを背景に,パネルの仕様を自ら決めてデファクトスタンダード化し,日本を含めた材料・部品・装置メーカーを巻き込んだ開発競争で主導権を握ろうとしている。Lee氏の言う総合力は,こうした国外メーカーへの影響力を高めることを意味していると思われる。

 激しい競争を繰り広げながら,Samsung社のLee氏もシャープ片山氏も講演で,「FPD業界の発展に寄与したい」と異口同音に語った。私も同じ思いである。FPD Internationalという展示会・フォーラムおよび日経エレクトロニクス,日経マイクロデバイス,そしてTech-On!といったメディアとしても,日韓メーカーが健全な競争によってFPD業界全体が発展する道を一緒に探りたいと思う。