CPUの設計を終えた時に、二つの大きな出来事に遭遇しました。一つは、蓮舫氏の「2位では、だめなんでしょうか」という、事業仕分けにおける有名な発言です。もう一つは、われわれと共同で、京を開発してきたNECと日立製作所が、プロジェクトからの撤退を決定したことです。

 このような障壁を乗り越えながら、2010年の秋に1号機を出荷し、2011年6月に世界一の処理能力の座を獲得できました。東日本大震災による影響が業務に及ぶ中で、まさに総力を挙げた取り組みとなりました。

尊敬され続ける技術者に

 開発を続けてきた中で感じていることがあります。まず、技術とは積み重ねで成り立っている、ということです。富士通の場合、京のプロジェクト開始までにUNIX用のCPUには10年以上も取り組んでいました。メインフレーム用のCPUまで含めると、30年間以上取り組んでいることになります。こうした技術の積み重ねによって、ようやく世界一の座をつかみ取れたのです。

 次に、技術者の生活の楽しさです。ものを作って、作ったものが狙った通りに動くのは、本当に楽しい瞬間です。たとえ海外で言葉が通じなくても、作ったものが万国共通の言語となって、理解が進みます。

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 会社員である以上、出世は運不運に左右される部分があります。しかし、技術者として優れているかどうかは、絶対的なものです。技術者同士であれば、互いに、技術者として一流かどうか、すぐにわかります。出世はしなかったとしても、優れた技術者というのは、その分野の中で尊敬され続けるのです。これは技術者の醍醐味だと感じています。

 日本は資源に恵まれない国です。スーパーコンピュータの分野では、中国の存在感が増してきています。学会などで中国の技術者の話を聞くと、「4~5年後には世界一の座を獲得してみせる」と豪語してきます。われわれの世代の技術者の多くが感じているのは、「彼らが豪語した通りになってしまうのではないか」という懸念です。うかうかしていると、日本は追い越されかねません。

 これからの日本を背負う学生の皆さんには、スーパーコンピュータの分野でなくても構わないので、ぜひ技術を磨き上げる仕事を選んでほしいと思っています。皆さんが、一流の技術者に育っていくことで、資源に恵まれない日本に、明るい未来が開けていくように感じています。

本記事は、2011年10月16日に開催された日経BP社主催「Tech-On !Campusミーティング2011」での基調講演を基に編集したものである。