次世代スパコン「京」のCPUを開発した、富士通の丸山拓巳氏
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 「2位では、だめなんでしょうか」─ 民主党 参議院議員の蓮舫氏から事業仕分けにおいてこんな迫られ方をしたことで一躍有名になったのが、われわれが開発にかかわったスーパーコンピュータ「京(けい)」です。理化学研究所と共同開発したもので、2011年6月に世界一の処理能力の地位を得ることができました。これで、われわれもようやく「1位でなくては、だめなんです」と、胸を張って言えるようになりました。

 このときに実証された処理能力は約8P(ペタ)FLOPS/秒です。この処理能力は、浮動小数点演算と呼ばれる足し算や掛け算などを1秒間にどれだけ処理できるかを示すもので、8PFLOPS/秒とは、1秒間に8000兆回の処理を実現できることを指します。1人の人間が10秒に1回計算できるとして、約20億年かかって処理できる量です。「京」という名前は、1京回/秒すなわち1秒間に1兆の1万倍、10の16乗である京の単位の処理能力を実現する、という目標から名付けられました。6月に8000兆回/秒まで実証され、処理能力が目標の1京回/秒に達するまで、もう少しまで近づいてきました(編集部注:2011年10月16日の丸山氏の講演から17日後の同年11月2日、理化学研究所と富士通は1京回/秒を達成したと発表した)。

 ペタという単位を、長さに例えて、わかりやすく説明しましょう。メートルは人間の身長のオーダーで、その次のキロになると、隣町との距離のオーダーになります。その次のメガは地球の直径、その次のギガは太陽の直径、その次のテラになると、太陽系の最も外側に位置する海王星の軌道半径が、それぞれのオーダーです。その次がペタで、0.1光年という距離のオーダーになります。

研究開発を変える処理能力

 スーパーコンピュータの処理能力のトップを日本が獲得していた時期が、これまで大きく2回ありました。まず1990年代の前半です。研究開発費を潤沢に使えていたバブルの時代の遺産が残っていた頃です。次は2000~2001年です。NECが開発した地球シミュレータが、やはり1位を獲得しました。この地球シミュレータの成果は、米国のスーパーコンピュータ関係者に大きな衝撃を与えました。そして今回の京が、再び処理能力の世界一を取り戻したのです。

 スーパーコンピュータはとてつもなく処理能力の高いコンピュータです。その時代の一般的なコンピュータでは解くことが難しい、大規模で高度な計算を、高速に処理できます。スーパーコンピュータが得意とする計算の一つに解析があります。科学技術の分野で使われるもので、コンピュータ上に仮想的なモデルを組み立て、さまざまな条件のもとで、その振る舞いを観察します。これによって、規模が大きすぎたり、危険が伴ったり、地球上では検証できなかったりといった、実験することが難しい状況の検証が可能になります。