重要なのは「いかに好きか」

 研究に取り組むにあたって、わたしが重要だと思っていることは、化学であっても、物理であっても、数学であっても、生物学であっても、地学であっても、それぞれの取り組む分野が「いかに好きなのか」ということです。好きでない分野の研究に、嫌々取り組んでいたのでは、独自のアイデアや研究成果を生み出すことができないように思います。

 理系に限らず、文系であっても、自分自身が取り組む学問や仕事を好きになることが、最も大事です。好きであれば、いろいろなことを考えて工夫して、独創的な研究、独創的な発想が沸いてくると思うからです。しかも、好きでないと続けていこうという気になりません。研究であっても、ほかの仕事であっても、独創的な取り組みを続けて、他人の物まねをしないことが、最も重要だと感じています。

進む道はのんびり考えて

 わたしはもともと数学が好きで、最初から化学や有機合成、カップリング反応が好きだったわけではありません。わたしが入学した北海道大学では、理科系の場合、理学部、工学部、農学部、医学部などを目指す学生をまとめて理類として分類して、1年半後にそれぞれが進む学部を決める制度がありました。

 北海道大学に入学した時には、数学が好きで、理学部で数学を学びたい気持ちでした。しかし、入学後の1年半の教養過程で、有機化学の教科書として使われた『Textbook of Organic Chemistry』を読んでみたところ、すごく面白く感じました。米国のハーバード大学のフィーザー教授が執筆した本です。

 辞書を引きながら原書を読むのは楽ではありませんでしたが、これをきっかけに化学を専攻しようと決めました。化学には、物理化学や理論化学のような数学に近い分野から、有機化学や生物化学のような数学とはかけ離れた分野まで、さまざまな分野があります。わたしは、数学が好きだったはずなのに、数学から最も遠い有機化学を専攻することに決めました。

 こうした経験から、若い世代の皆さんには、「現在嫌いだから取り組まない」とか「現在好きだから取り組む」というのではなくて、「もっとのんびりと考えた方が良い」と伝えています。わたしがそうだったように、好きな分野が変わってくるかもしれないのです。今すぐに無理して進む道を決めるのではなくて、先生や先輩、友人と接していろいろ話をしたり、本を読んで面白い分野を見つけたりする中で、自分自身の進む道を決めてほしいと思います。