なんで教員にならないのって聞かれますか
Hさんは教育学部に通う大学3年生です。大学が同時開催する「教員採用試験対策講座」に参加せず、向日葵さんが講師となっている「民間企業就職講座」にやってきました。ちょっと自信のなさそうな表情をしていますが、高校時代はきっと運動部だったんだろうと想像させるバランスの良い骨格、知的な表情、入る教室を間違えたのでは?と疑いたくなるくらい、みるからに「先生の卵」です。
講座では、民間企業の就職活動の流れはこうです、という類の話はもちろんしますが、その過去の先輩が遭遇した親子の就活ギャップの話も盛り込んでいきます。
・子を教育学部に入れたがる親は「教員になって戻ってくる」と信じているという都市伝説
・親が「お前の好きなように」通り、東京で就活していたら、おばあちゃんが放った「長男は墓守れ!」の一喝
・教員だったおじいちゃんの「民間に勤めるお前は仮の姿、きっと教員になれよ」という遺言
・教員にさせたい親との2週間の壮絶親子喧嘩の結末
なんていう話を小噺のように話している間にも、Hさんの思考は時々講座内容から離れてしまいます。教壇から見ていても、その眼の奥にある迷いが手に取るように分かります。
講座が終わっても、Hさんは、なかなか帰ろうとしません。こちらもゆっくり片付けをやりながら、教室の学生たちが帰っていくのを待ちます。
Hさんが聞きたかったのは、民間企業の面接で聞かれる質問のことでした。
「あの、面接で、何で教員にならないのって聞かれますか」
教員採用試験よりも民間企業の方が楽?
結論から言うならば、100%聞かれます、しかも内定まで何回も何回も念押しで聞かれます。
・どうして教員にならないの
・本当に教員にならないの
・そうは言っても、せっかく免許とったんだから、ならなくちゃもったいないと思わないの
・親はなんて言っているの
・そうは言っても、僕が親ならやっぱり教員になってほしいって思うけど、なんでならないの
とたたみかけるように聞かれます。Hさんは益々元気がなくなってしまいました。
ところで、Hさんは、なぜ、そう思ったの?
「なんで教員にならないの」って聞かれたら都合の悪いことでもあるの?
「私、教員に向いていない気がして・・教員の仕事は大変だぞって先生もおっしゃるし、なんだかやっていく自信がなくて・・・」
それで?