圧巻はISSCCのFar-East Secretaryとして、日本からの学会発表の取りまとめをしたことであろう。1996年から1998にかけてのことである。この仕事は学会本部より大いに感謝され、ISSCC Service Awardsをもらったほどである。活動の一環として、英語でのプレゼンテーションの国内リハーサルを主催したが、その時、私は自社と他社の区別をしたことがない。言うべきことは遠慮しないで言うし、時には叱責することもある。

 傍目(はため)にはご苦労なことだと映ったかもしれないが、エンジニアに本当に役立つような学会にしようという一心であった。次世代を背負う若いエンジニアには特に気を配って注意した。もうそれから約15年になる。今でも時々、他社のエンジニアから声をかけられる。「あの時は下東さんから随分言われましたよ」と。そして2人で大笑いになる。あの時の新人はもう偉くなっていた。

学会を利用して、幅の広い専門家になろう

 エンジニアはT型を目指すべきであり、専門の深さと共に知識の広さが求められる。そうでなければ真に専門を生かせないであろうし、本当の意味での創造性は発揮できないだろう。

 学会は自分の力試しをして専門を深めると共に、新しい知識を吸収して自分を広げる絶好の機会である。エンジニアにはこのような機会があって恵まれているのだから、新技術や新知識の吸収のために積極的に利用すべきである。国内はもとより国際学会にも積極的に参加することを勧めたい。そして、大きく視野を広げ、幅の広い専門家になってもらいたいと思う。

 ただし、何事においてもGive&Takeの原則を忘れないようにしよう。学びの場に対して自分がどう貢献できるかについても、決して忘れてはならない。

筆者からの御挨拶
 今回をもちまして、コラム「技術者魂」は最終回とさせていただきます。週1回、1年半に及び御愛読いただきまして、誠にありがとうございました。
 このコラムでは、私というエンジニアが半導体という技術分野を通して見たエンジニアの心象風景を書こうとしました。心象風景とは外目には見えにくい思想や感性を含んだエンジニアの内面であり、より普遍性があるものと信じています。そして、それは製品や技術というエンジニアとしての成果を引き出す源の魂であると思っています。そのような「技術者魂」に光を当ててみようというのが、本コラムのもくろみでした。「技術者魂」が皆さんのお役に少しでも立てたであろうことを願いながら、筆を置くことにします。

2011年9月 吉日
下東 勝博