半導体分野で代表的な国際学会が「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)」と「IEDM(International Electron Device Meetings)」である。ISSCCは半導体回路・システム技術、IEDMはデバイス・プロセス技術を扱い、これらは相互補完的な学会と言える。共に本拠は米国である。この姉妹学会として日米が共同開催を行うものが「VLSI Symposium」であり、これもCircuitsと Technologiesの2部構成である。欧州でも同様に、「ESSDERC(European Solid-State Device Research Conference)」と「ESSCIRC(European Solid-State CIRcuits Conference )」がある。

 半導体の主要な学会が、日米欧の3極で開催されるのは、半導体の国際性を端的に表しているものである。これらは同じように見えるが、実はかなり差がある。それぞれの地域で半導体の応用やTechnologiesの強い分野が違っているからである。例えば半導体の応用では、米国はコンピュータや通信一般が強く、日本は民生機器や自動車が強く、欧州は無線通信やアナログ分野が強い。従って、学会のプログラム構成にはそれぞれに特徴があるから、よく注意しなければならない。学会は、エンジニアが自らの技術力を世に問う格好の機会であるとともに、別の目から見れば視野を広げる最も有効な機会とも言える。

自分の関係するセッションだけ聴講するというのは……

 時に、学会に行って自分の関係するセッションだけを聴講して、それで良しとしてしまう人達を見かける。それは余りにも、もったいないことである。上述の主要学会は、半導体の非常に広い分野をカバーしている。技術分野でいえばプロセスから設計、システムまで、製品分野でいえばメモリからプロセサ、アナログまで、応用分野でいえばコンピュータ、通信、民生機器などと非常に幅広い。学会に行って、自分のセッションだけ聴講するというのは、幅を広げる好機をむざむざ捨てているようなものだ。

 しかし、漫然と学会に行っても幅は広がらない。そこに意図がなければ、広さに戸惑うばかりであろう。知見をどういう方向に広げていこうかという戦略を持たねばならない。例えば、専門が回路設計であるエンジニアが半導体の応用やシステムへと広げていこうとするならば、「CICC(Custom Integrated Circuits Conference)」が良い選択になる。そして、事前に「何が知りたいのか」という問題意識を整理し、周到に準備をして参加すべきである。どの学会も必ず事前にプログラムを載せた小冊子を発行するから、それを見て自分の目的に叶うかどうかも検討しておくのが良かろう。学会で幅を広げるには、参加するまでの作戦が勝負なのである。

 私の場合学会に出席する目的は3つある。発表や講演を通して自らの技術力を世に問うとともに、自分野(メモリ)の技術開発状況を詳細に把握することが、まず第1である。次は、関連分野の技術開発状況の概略を把握し、自分野へのインパクトを考察することである。例えば、プロセサ分野で消費電力の過大さが指摘されれば、早晩メモリにも飛び火しようと考え、「早めに低電力化に取り組もう」という戦略が立てられる。

 最後は海外のエンジニアとの意見交換である。ここでは学会という表事情に加えて、表にはあまり出てこない不確定な裏事情の収集が中心である。これは将来を考えるのに大いに役立つ。従って、私は必要なセッションを聞くと共に、空いた時間は会議場周辺でキーマン(興味ある分野のプロ)を捕まえては教えを乞うている。非常に興味があったり、気があったりすれば、夜の会食をも伴にして懇談する。こういう折の私の原則はGive&Takeである。できる限り率直に自分の意見も披露する。Takeだけでは長続きしないし、何より良質の情報は得られないからである。

学会の仕事に、積極的に取り組む

 Give&Takeの原則から、私は学会にも自分なりに貢献しようと、積極的に多くの学会で論文委員や世話人を務めた。国内の学会はもとより、国際学会のISSCCとIEDM、CICC、 ESSCIRC、 VLSI Symposium、DRC(Device Research Conference)などが代表的なものである。