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T型 ―幅の広い専門家に―

下東 勝博=半導体理工学研究センター
2011/09/16 00:00
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 皆さんはT型という言葉を聞いたことがあるだろうか。T型といっても、昔一世を風靡(ふうび)したフォード自動車の初期モデルの名前ではない。Tという文字の縦棒は専門性の高さを示し、横棒は専門以外の広さを示す。エンジニアは専門性を高めることが肝要だが、それだけでは不十分であり、「関連分野の知識を広く吸収し幅を広げよ」というものだ。そして、これは非常に重要なことである。

 なぜ、そうなのか。山を想像するとよく分かるだろう。山は、裾野が広くなければ高くはなれない。裾野を広げるのが高さの条件であることがよく理解できる注1)。一般に、「専門家を目指せ」「Specializationが大事だ」と言うが、これは誤解されやすい言葉である。細い針のような専門性の高さやSilo(サイロ)のような閉鎖的な高さを目指すのではない。広さを持った高さ、すなわち「大きな山型を目指すべきだ」と言うのが正しい言い方であろう。エンジニアはこの点を本当によく理解しなければならないと思うので、もう少し踏み込んでおこう。

注1)「山は逆T型ではないか」と言われるかもしれない。日本では専門の高さと共に広さが重要であることを説明するのに、分かりやすい例として山が取り上げられる。欧米ではT型(T-shaped)と表現される。Tの字は頭が重そうで安定感がなくあまり美的ではないが、これは木(Tree)がイメージされているようだ。太い幹から多くの枝葉が出ており、遠目には高くて広いという印象を与えるからであろう。いずれにしても、山もT型も同じ概念を言っていると思って差し支えない。

 創造のやり方の1つにアナロジーがある。これは、ある分野の考えを他分野で援用して新たな創造をすること、もしくは一見違った分野同士の知識を融合して新たな分野を切り開くことであり、創造の基本中の基本である。こういうことをやるためには、高さだけでは不十分で、広さが不可欠であることが分かるだろう。「Innovator’s Dilemma」で有名なClayton M. Christensen氏は近著「Innovator’s DNA」で、創造性の重要な資質を5つのDNAとしてまとめた。その第1番目がこのアナロジーであり、彼らはAssociating - drawing connections between questions, problems, or ideas from unrelated fieldsと呼んでいる注2)

注2)“Innovator’s DNA,” J. Dyer , H. Gregersen , Clayton M. Christensen , Harvard Business Review Press , 2011。Innovator’s DNA の第1はAssociatingであるが、そのほかは Questioning, Observing, Networking, Experimenting である。この5項目を見ていると面白いことが分かる。最初のAssociating以外は全て行動することを言っている。イノベーションは机上だけでは出来ないと言うことだ。積極的に外と関係を持って知見を広げなければならない。

 専門家としてのqualificationとして学位があるが、学位はあまりに深さに偏りすぎている(これは日本だけの問題ではなさそうであるが)。学位だけでは狭すぎてR&D(研究開発)のプロにはなれないと思ったほうが良い。学位は重要であるが、それは必要条件なのである。広さがその十分条件をなす。従って、エンジニアは普段から意識して広さを求めなければならない。広さこそが専門を生かす道である。私がよく取り上げる土地勘とはこの広さのことである。

 専門分野を高くする方法は容易にイメージできるが、裾野を広げるにはどうすれば良いのか。私のお勧めは、学会の活用である。

学会は視野を広げる絶好の機会

 学会といえばアカデミックな存在で基礎的な研究発表の場だと思われようが、それはそうではない。エンジニアリングの学会では、アカデミックな研究(Whyに重点)と開発(Whatに重点)の発表は半々である。

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