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HOMEスキルアップマネジメント下東勝博の「技術者魂」 > プラットホーム ―戦略と戦術の相克―

下東勝博の「技術者魂」

プラットホーム ―戦略と戦術の相克―

  • 下東 勝博=半導体理工学研究センター
  • 2011/09/02 00:00
  • 1/2ページ

 鯛の丸に牡丹。私が通勤で使う地下鉄のプラットホームのトンネル側壁には江戸小紋が何点か描かれている。なかでも、この「鯛の丸に牡丹」は非常にユーモラスで、大好きである。太った鯛が丸く中心に描かれ、左右に牡丹が配置されている。何度見ても笑ってしまいそうな鯛である。小紋の中でも秀逸と言っていいだろう。プラットホームを歩きながら小紋を一つずつ眺めていると、いつも思い出す問題がある。

 エンジアリング向けのプラットホームを、誰が時間と労力をかけて作るのか。そして誰がそれを使って利益を得るかという問題である。地下鉄のプラットホームは地下鉄の運営会社がその利益のために投資したもので、いずれ運賃として使う人から回収するであろう。このプラットホ-ムはあまり悩まなくて良さそうだ。エンジニアリングでもプラットホームというものを必ず考えなければならない時期が来る。このプラットホームは悩ましい。皆さんもきっと一度はこの悩みに遭遇されることであろう。

 プラットホーム(platform)という言葉を英Oxford Universityの辞書で引くと、まず、「a raised level along the side of a railway track where passengers get on and off trains at a station」とある。これは冒頭に書いたプラットホームを指す。次に、「a standard for the hardware of a computer system、 which determines what kind of software it can ran」とある。こちらは、今回、取り上げるエンジニアリング向けプラットホームの元々の定義だろう。現在では、多くの人が利用もしくは再利用出来る環境と言うような広い概念として、プラットホームという言葉を使っている。したがって、多種多様なプラットホ-ムが存在する。良いプラットホームを見つけて使うことは比較的簡単だが、良いプラットホームを作ることは非常に難しい。

お一人さま向けプラットホーム

 前置きが少し長くなったが、エンジニアリング向けプラットホームについて考える。最初は、自分で作って自分が使うプラットホームである。具体例として、特許、研究報告、論文を作る(書く)ためのプラットホームを紹介する。エンジニアは多くの報告を書くことになるが、主なものがこれら3つである。そして、一回きりではなく何度も何度も書くことになる。これらを書いていると、「なんだ。同じことをまた書いている」と思う部分が出てくる。特許、研究報告、論文のプラットホームを作っておいて、新規な部分だけの変更で手間を省けないかと、誰しも考えるであろう。

 しかし、思うのはやさしいが実行のハードルは意外に高いことにすぐ気付く。最初に多くの手間暇が掛かる。つまり、初期投資が大きいからだ。それに対し、リターン(将来どれだけ再利用する可能性があるか)は不確かである。将来の不確かな利便性と現在の確実な労力投入とを天秤に掛けることになる。そして、尻込みしてしまう人の方が多かろう。この実行のバリアを超えるのは決して易しくはない。私は、無駄になるかもしれないと思いながらも、このバリアはスッと超えた。何が再利用できるのかを考えることが面白かったし、どうせ特許、研究報告、論文は数多く書くことになるだろうと思ったからである。

 それぞれにプラットホームを作った注1)。最も有効だったのは特許のプラットホームである。標準形は半導体の製造方法から、素子構造、メモリ回路、メモリ・システムまでを含む100ページを超すものとなった。お陰で、その後の特許執筆の労力は約1/3になった。研究報告のプラットホームでの省力効果は約1/2だった。論文が最も再利用性が低かったが、それでも書き方のスタイル(英語の言い回しなど)、イントロダクション、実験装置の概要、技術の動向、謝辞などは定型化でき、その後はおおむね30%くらいは省力化できたたように思う。

注1)このプラットホ-ムは、標準形(章節立て)、章節の構成、説明モジュール(ひとかたまりの説明文と図)の3つのレイヤーで構成されている。特許、研究報告、論文はそれぞれ独立している。なぜなら、それぞれに形式が違うからである。しかし、これらは全く別であって、互いに再利用性がないのかと言えば、そうではない。説明モジュール単位では相互利用可能である。説明モジュールというのは半導体メモリ分野を例に取ると、メモリのシステム構成、機能ブロック図、回路図、制御方法、デバイス構造、プロセスフローなどである。これらは一度きちんと書いておけば、さまざまケースで再利用できる。むろん、常にメンテナンスは必要ではあるが。説明モジュールの相互利用性という特徴を考えれば、このプラットホームは1つであって3種類(特許、研究報告、論文)の標準アプリケーションがその上に載っていると言うことができる。

 プラットホームの良さはほかにもある。それは、新しい知見のある部分にだけ頭と労力を集中できるために、仕事の質も上がることだ。このように結果論だけから言えばプラットホームは良いことずくめだが、それを作るには大きな初期投資が必要であり(私のプラットホームもそれぞれに約1年、総計で3年の歳月を必要とした)、自分が作って自分で利用するプラットホームですら実際に作るバリアは高い。自分だけでなく多くの人に利便性があるようなプラットホームを作ろうとするバリアはさらに高い。

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