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下東勝博の「技術者魂」

ポジショニング ―自分を活かす―

  • 下東 勝博=半導体理工学研究センター
  • 2011/08/26 00:00
  • 1/2ページ

 私の住まいの近くに成等院というお寺があり、紀伊国屋文左衛門の墓がある。江戸中期の豪商である。彼は紀州のみかんを江戸へ、江戸の塩鮭を大阪へ運んで財をなした。圧巻は、明暦の江戸大火のとき木曾の材木を買い占めて巨万の富を築いたこと、と言われている。彼の成功は、そのポジショニングにある。すなわち、今何が求められているかを素早く察知し、困難を乗り越えてやるべきことを実行した。

 ポジショニングは商人だけの話ではない。例えば、経営論でのポジショニングとは、市場での自社ブランドの位置付けをして特色を出すことである。エンジニアも、自分を最も活かすような立ち位置を常に探し続けなければならない。エンジニアにとっては自分自身が商品であると言えるから、ポジショニングはとても大事な話なのである。

顧客サポートに徹したDRAMエンジニア、韓国の友人C君

 「下東さん、また会ったね」。たどたどしい日本語が聞えた。米国出張で夜、韓国料理店に会食に行ったときのことである。これからは英語でのやりとりである。「やあ、まだ居るの?」と言うと、「年の半分はこっちにいる」と韓国の友人C君は笑った。彼はスタンフォード大学の研究室の後輩である。「確か3カ月前に来たときにもここで会ったな」と思案していると、「オールド リユニオンだ、さあさあ」と早速酒を注ぎに来る。相当な酒豪であり、下戸である私は対応に困る。「酒をなぜ飲むのか」と聞くと、「酔うためさ」とあっさり答える男である。

 彼の名刺にはDRAMの設計部長と書かれているが、設計の実務は任せっきりで、彼自身は米国で製品のサポートをしている。製品技術部門の若い社員10人くらいを引き連れて飲んでいた。背は低く豪快な風貌は、お世辞にもエンジニアとは言いにくいが、人なつっこい笑顔を絶やさない親分肌である。当時は日本のDRAMが世界をリードしていた時代であり、韓国のDRAMは「まだまだ」という評判だった。

 彼の着眼力のすごさは、「現在最も重要なことは設計することではなく、韓国のDRAMの知名度を高めることだ」と喝破し、自身は顧客サポートに徹した点にある。「エンジニアは捨てたよ」、酔った拍子に彼はニヤリと笑ってそう言った。顧客サポートもエンジニアリングの一部であるから、「エンジニアは捨てたよ」という言葉の真の意味は、「エンジニアリングで最も自分が活きるポジションを見つけた」ということであろう。

 自分の能力と周りの状況を勘案し、自身の立ち位置、すなわちポジショニングをしっかりやったのである。彼は、メモリ事業部長を皮切りに出世していった。彼の会社を情報交換で訪問することがあったが、昼間の技術の会議では見たことはない。しかし、なぜか夜の宴席には居る。それは徹底していた。

ワインと共存できる研究開発環境を手に入れた、イタリア系米国人のD君

 イタリア系米国人のD君は大のワイン好き。「ワインカントリーで仕事がしたい」と、サンフランシスコの北、Sonoma Valleyに住み着いた。そこで、今でもH社の高周波関係の半導体を開発している。「俺は、半導体の性能を測る計測器をやる。そのためには何より高性能の半導体(バイポーラ・トランジスタやGaAs素子)を開発しなくてはならない」と言って笑っていた。「MOS(metal oxide semiconductor)の台頭期にバイポーラ・トランジスタやGaAs素子とは、何と物好きな」と思ったものだ。しかし、それが彼のポジショニングであった。

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