この思いは何か行動しなければならないレベルになってしまった。しかし、このような漠然とした感覚を述べることに躊躇する心もあった。でも、もしこの仮説が正しいなら、これは半導体業界全体の問題だろう。海外でも同様な悩みを抱えている人がいるのではなかろうかと、国際学会の折に、親しい海外のR&Dマネジャの何人かに思い切って言ってみた。言って正解。この悩みは私だけのものではなかったのだ。

 半導体のR&Dはますますコストがかかるようになっていくが、どこでも同じようなことをやっており、効率の悪い面が目立ってきたことが分かった。そして、技術発表や技術交流の場は数多くあるが、このようなR&Dのマネジメントの課題を議論する場がないことに気がついた。場がないなら創ろうと思い、まずは非公式なForumという形でスタートさせた。R&Dの方向を議論する国際的なForumを米国I社の友人と共に主催することにした。彼はエンジニア出身で、当時はR&D Planningを担当していた。

 関係する全員が集まれるという利便性を考えて、2月開催の「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)」と6月開催の「VLSI Symposium」に合わせて年2回開催することにした。そして、2月のホストを彼が担当し、6月のホストを私が務めることにした。「増大するR&Dコストを解消するにはどう効率を上げるかが喫緊の課題である」という認識で彼と一致し、最初の話題を「Research Effectiveness」として、参加者を募った。

 第1回は1998年2月。私は、「Measures of R&D Success in Terms of Patent Productivity」というタイトルで問題提起を行った。最初のメンバーは日、米、米、米、韓の5人だった。皆の問題意識は驚くほど一致し面白い議論ができた。第2回のテーマを「R&D Management Model」とし、継続しようとの意見が大勢を占めた。新しいForumの下地ができたのである。この後、欧州や台湾からの参加者を得て、Forumは7年以上続いた。

有望な技術に関して意見交換

 将来の半導体R&Dのやり方を語り合うのがこのForumの趣旨だったが、私にはもう1つやりたいことがあった。それは有望な将来技術に関する討論である。1年間には多くの新技術の提案がある。1年を振り返り、その中のトップテンの技術を選ぶという作業を、私はずっと続けてきた。このトップテンはあくまでも私個人としてのものである。他の人は何を選ぶのだろうか。私は片寄ってはいないだろうかといつも気になっていた。そこで、1年に1回、その年での新技術トップ3を持ち寄って可能性を議論しようと持ちかけた。皆も賛成してくれて、私がホストとなる6月にそれを行うことになった。