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仕事がうまくいく,とっておきの法則

やりがいや充実感の源はどこに?

  • 渋谷 和宏=日経BP社 ビジネス局長
  • 2011/04/21 11:30
  • 1/2ページ

 これは誓ってもいいが、会社勤めをしている人のほとんどは一年に一度くらいの頻度で会社を辞めたくなったり、仕事を離れてのんびりしたくなる誘惑に駆られてしまうのではないだろうか。少なくとも僕はそうだ。仕事でミスしたり、嫌な目に遭ったりしたわけではないのに、締め切りや会議から自由になりたくてたまらなくなることがある。
 そんな時、僕が思い出すのは僕より三つ年上のWさんのことだ。

 Wさんは僕が学生だったころ、バイト先で知り合った人で、いわゆる一流大学を出ていながら「俺は好きなことをして自分らしく生きたい」と宣言してどこにも就職せず、バイトをしながら陶芸やギターの演奏を楽しんでいた。
 と言っても、少し前まで話題になったワーキングプアとか負け組といったイメージはまるでない。それどころか、地方で手広く事業を展開している実家から潤沢な仕送りをせしめ、父親のお下がりの外車に乗り、優雅な東京生活を楽しんでいた。
 そのWさんから久しぶりに電話をもらったのは僕が入社二年目、一生懸命書いた記事が編集長や副編集長から全く評価されず、しかも固有名詞を間違えるというミスを犯して、とことんへこんでいる時だった。
「お久しぶり、元気にしていた?」
 Wさんの口調は相変わらず春の日だまりで毛づくろいしている猫みたいに穏やかで、力が抜けている。僕はそれに甘えて「ちょっとミスしちゃって…」と情けない口調で言ってしまった。
「なんだよ。いきなり泣きそうな声を出して。今日、電話したのはさ、俺、個展を開くんだよ。作陶展だ」
「作陶って……Wさん、陶芸を始めたんですか」
「ああ、面白いぞ。ぜひ観にきてくれよ。もし時間があればその後、一杯飲もう」
 僕は喜んで…と答えた。

 その週末、職場を夕方に抜け出した僕はWさんの作陶展に出かけた。そこはしゃれたギャラリーで、Wさんの好きなモダンジャズが静かに流れていた。
 会場にいたWさんに会釈し、茶器や火器などの作品を観て回る。
 陶芸のことは全くわからないが、どれもなかなかのものであるように見えた。Wさんはもともとが器用なのだろう、以前はクラシックギターをせっせと習っていて、こちらもかなりの水準に達していた。
 ギャラリーが閉店した後、僕とWさんは近くの居酒屋で久しぶりに杯を酌み交わした。Wさんに問いかけられ、僕は仕事のことを話した。同世代の同僚たちはそれなりの仕事をしているのに、まだ一人前になれず、ときに足手まといのように扱われている。あげくの果てにまたミスを犯してしまった。僕はこの仕事には向いていないのかもしれない。自分らしく自分の時間を好きなだけ使えた学生時代が懐かしい──。
「落ち込む気持ちはわかるけれど、焦る必要はないんじゃないの」
 うんうんとあいづちを打ちながら話を聞いていたWさんは、僕がひととおり話し終わると大したことじゃないよという調子で言った。
「倦(う)まず弛(ゆる)まず頑張ってみて、それでもこの仕事に向いていないというレッテルを張られてしまったら、そのときにどうするか考えればいいじゃない。俺が倦まず弛まずだなんてがらじゃないけどさ」
「僕はWさんみたいに達観できないんですよ。性格なのかな。いつもうじうじしていて……」
「まあ、たしかにそうだな」
「いっそのこと辞めちゃおうかな」
 肩の力を抜いたWさんに接しているうちに、ぽろりとそんな言葉がもれた。言おうとして言ったのではなく、ふと口について出たという感じだったが、いざ言ってしまうとそれが以前からの考えであるように思えてきた。
「辞めてどうするのさ」
「しばらくのんびりします」
「その後は?」

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