自社で開発したハードを最初に売って、その後は消耗品で継続的に儲ける。インクジェットプリンターなどで常套のビジネスモデルだ。

 では、このハードを他社が作った“人のふんどし”で賄えるとしたらどうだろう。ハード開発の初期投資を必要としないまま、自社で作った消耗品は売れ続ける。まさに「濡れ手で粟」の商売になり得る。

 これを具体的に実践している商品がある。キングジムが今年2月に発売したメモ帳「ショットノート」だ。年間目標の15万冊に対して、初回出荷分3万 5000冊を用意したがすぐに完売。発売前の期待値も高く、同社ホームページへのアクセス数は、発表日に通常の2.6倍に及んだという。ネット通販などでは、今も品薄の状態が続いている状況だ。

 ショットノートは、見た目は何の変哲もないただのメモ帳。ただこれが、米アップルの「iPhone」と組み合わせることで威力を発揮する。

 まずは同社が無料で配信するiPhone向けのアプリ「SHOT NOTE App」を起動させて、メモ書きしたノートを撮影。するとノートの内容が瞬時にデータ化され、iPhone内やクラウドアプリの「Evernote」に保存される。アナログのメモ書きをデジタル化するためのツールだ。

 人気の理由は、どんな角度から撮影しても、ピタリとiPhoneの画面に合わせてくれるスキャン機能。ノートの四隅には、それぞれ異なる四角形状のマーカーが小さく印刷されている。iPhoneがこれを認識することで、斜めから撮影してもサイズや角度、色などを補正し、表示してくれる。

 もう1つの特徴が検索機能。ノートの上部にページ番号や日付を書き込む場所があり、OCR(光学式文字読み取り装置)で認識する仕組み。メモをすぐに呼び出すことができる。

 アプリの開発コストはかかったが、ハードを作るために金型などを起こす必要もなく、「最小限の投資で済んだ」(同社)という。理想的なビジネスモデルを構築した商品と言えるだろう。

些細な積み重ねで差別化図る

 ただ、斜めで撮った写真を自動で補正するためのiPhoneアプリはほかにもある。また、ノート自体も1冊336~630円と割高な印象は否めない。なぜここまで人気なのか。

 「(好調の理由は)些細な違いの積み重ね」と話すのは、開発本部商品企画部の遠藤慎氏。例えば、ほかのスキャンアプリでは、長方形を引き延ばす比率が微妙に違っているものもあるが、ショットノートはiPhoneの画面である4対3に寸分違わず合わせることができる。また、一番小さいSサイズのノートの高さをiPhoneと全く同じにするなど、細かなこだわりも多い。「似ているアプリや商品が多いからこそ、細部には徹底的にこだわった」と遠藤氏は胸を張る。

 スマートフォンやiPadなどデジタルガジェット全盛期に合った文房具を作るというのが、ショットノートのそもそもの狙い。「手書きのメモをデジタル化したい、というニーズはあるはず」との読みが当たり、ヒットに結びつけた。

 音楽や書籍などが次々にデジタル化されていく時代に、ノートという「超アナログ商品」を継続的に売る今回の手法は、業種を超えてビジネスのヒントになりそうだ。