クルマに乗り込んだ際の独特なにおいや空気に、思わず眉をひそめた経験は誰しもあるだろう。乾燥や花粉が悩ましいこの季節や暑い夏場ともなれば、小さな車内は空気の悪い密室に一変する。家庭用エアコンでにおいや花粉を除去する高機能型製品が次々と登場しているように、クルマの空調機器も車内の空気を改善するための道具として進化を遂げつつある。

 ドリンクホルダーに差し込んだ、コーヒーのタンブラーのような形をした機器。デンソーが自動車用品店やディーラーなど国内800の店舗で販売するのが小型の「プラズマクラスターイオン発生機」だ。1cm3当たり2万5000個の濃度で発生するプラズマクラスターイオンが、空気中のにおいやアレルギーのもととなる物質を分解除去するという。

デンソーのプラズマクラスターイオン発生機はデザインや使い勝手も好評

 もともとシャープが家庭用エアコンなどに向けて開発した技術で、カーエアコンで世界大手のデンソーが共同で製品化した。機能面もさることながら、「デザインや使い勝手で好評を得ている」(デンソー広報部)という。電源はクルマのシガーソケットから引くことができ、小型で場所を取らずにクルマの内装ともマッチする。

 空気の温度調節そのものは備えつけのカーエアコンに任せ、エアコンだけでは乾燥しがちな空気の浄化を手助けする。取り外して電源アダプターに接続すれば家庭やオフィスでも使用可能。タンブラーの感覚で気軽に持ち運べば、利用する場面は少なくない。

軽でも高機能型に人気

 価格は店頭実勢で1万円前後。2009年12月の発売以来、昨年末までに22万4000個を販売した。中でも年末から春にかけてのこの季節に販売が集中する傾向にあるという。デンソーの当初見込みを1割上回るペースで、後づけの自動車用品としてはヒット作と言えるだろう。

 一方、ダイハツ工業は昨年末に全面刷新して発売した軽自動車「ムーヴ」の一部グレードに、除菌や花粉抑制、脱臭効果などがある、パナソニック電工の「ナノイー」技術を採用した。

 新車販売の不振が続く中、ムーヴは全面刷新が奏功して1月も前の年を2割強上回る水準で販売が推移する。このうち、オプション装備も含めたナノイーエアコンの搭載比率は、2割を占めている。

 軽自動車の割には広々とした車内空間が売り物で、女性顧客の比率が高いムーヴだけに、車内の快適な空気は欠かせない。ナノイーは微細な水分を含んだイオンが脱臭や花粉抑制につながるうえ、肌や髪の保湿効果もあるとしている。オプション装備する際の価格は1万5000円程度と、軽自動車としては割高だが、軽では初めて採用したこともあり、人気は高い。

 さらに、高級車ともなれば、空気の演出も上質さを増す。日産自動車は旗艦モデル「フーガ」に新開発の「フォレストエアコン」を採用し、好評を博している。

 エアコンからはプラズマクラスターイオンやアロマ成分を含んだ空気を発生させ、においセンサーや高機能フィルターを組み合わせることでにおいや菌、花粉を除去。さらに噴出する風の強弱をエアコンが自動調節し、人間にとって心地いい風を送り出す。

 日産によると、室内空間の容積の割に窓の面積が広い自動車では、日光や外気の影響を受けやすく、家庭用に比べて容積当たり20倍の出力がエアコンに求められるという。その分、空調機能が乗員に与える影響も大きく、性能の訴求力もより大きいと言えるだろう。燃費や価格だけでなく、クルマの商品力はそこにもある。