知的障害者の創作物を取り入れた商品の売れ行きが好調だ。インターネットを通じて評判が広まっている。

 かわいらしい動物などのイラストが描かれている段ボール。手がけたのは、九州の福祉施設で働く知的障害者だ。この段ボールは「だんだんボックス」と呼ばれ、障害者の自立支援や地域活性の一環として、昨春に構想が練られた。販売は8月下旬から始まった。

 小さなものから特大サイズまで4種類の大きさ、6種類のデザインを用意。価格は1つ200円から400円と手頃だ。個人がギフト用に使うだけでなく、地元九州を中心に、企業が採用するケースが目立っている。

 販売額の10%が印税としてアーティスト(デザインした障害者)や福祉施設に還元される。また、売り上げから経費などを差し引いた収益もまた、すべて福祉施設などへ回る仕組みだ。

 だんだんボックスを企画したNPO法人(特定非営利活動法人)匠ルネッサンスの神崎邦子代表は「チャリティーやイベントという一過性のものではない。持続的な経済活動を通して、障害者の自立を支えたい」と語る。

(写真右:Woolman)

クリエーターが磨いて商品化

 ギャラリーや雑貨店などが入る東京・表参道の複合文化施設「スパイラル」を営むワコールアートセンターもまた、知的障害者の創作物を活用した商品を企画・発売している。雑貨店では、洗練されたデザインの家具や雑貨を取り扱うことで知られている。

 昨年、同社は横浜市の文化施設「象の鼻テラス」で開催している「横浜ランデヴープロジェクト」で企画・運営の一部を任された。このプロジェクトは「アートの実社会への応用」がコンセプト。その一環として障害者が働く地域作業所と、著名なクリエーターを結びつけて製品を開発する試みが始まった。

 クリエーターが協力し、障害者が持つセンスに磨きをかけて商品化する。中でも、売れ行きが好調なのが、「マサコちゃんの時間」シリーズだ。

 横浜のNPO法人「空」が運営する地域作業所「風のバード」で働くマサコさんが織る色彩豊かな生地を活用。ファッションデザイナーの矢内原充志さんがトートバッグを作った。価格は7560円と決して安い価格ではない。

 だが、「6月から販売を開始したが反応がよく、10月から新アイテムとしてポーチも展開するに至った。納品と同時に売れていく状況」とワコールアートの小泉智子さんは語る。マサコちゃんの時間は、スパイラルのインターネットショップでも購入可能だ。洗練されたデザインの商品が並ぶ中で、堂々と肩を並べる存在となっている。

 「自分の商品が売れたり、注目されたりすると、みなさんのモチベーションが急上昇した。作業効率が倍になった人もいる」と、矢内原さんは売れ行き好調によるうれしい副次効果を語る。

 障害者の作る物は、施設がバザーで販売するのがほとんど。そこにクリエーターの磨く力が加わることで、高付加価値な商品になる。

 「かわいそうだから買う」ではない。相応の対価を払うという資本主義の原則にのっとった当たり前の行為がそこにはある。高い品質で、買う人も気持ちよく、使う人の心も温まる。売れ行き好調の背景には、ブランド物を持つ所有欲ではなく、「心を満たす消費」の渇望が消費者にあるのかもしれない。