春を予感させる暖かな日が増えてきた。冬場の運動不足解消法として、自転車通勤を検討している人も多いのではないだろうか。満員電車のストレスから解放され、ちょっとした地球環境への貢献にもなる。企業の間で自転車通勤に手当を出す動きがあるのも追い風だが、問題がないわけではない。

 その1つが交通事故だ。社団法人自転車協会の調査によると、自転車通勤中にヒヤリとしたり、ハッとしたりした経験がある人は全体の6割を超えるという。特に暗い夜道は危険で、自転車用ライトで前方の安全確認はできても、後方は死角になりやすい。残業が多く、帰りが遅い人にとって自転車通勤を躊躇する一因となっている。

 走行時の安全性を高めて市場をさらに拡大させようと、かばんメーカーが動いた。「ACE GENE(エースジーン)」のブランドでビジネスバッグを展開するエースは、電池を使わずに発光するLED(発光ダイオード)ライトを搭載した4種類の新商品を発売した。

 このうち2種類は、背負う、手で持つ、肩にかけるという3つの運び方ができる3WAY型と呼ばれるかばん。自転車通勤時には背負うことを想定し、かばん表面に固定させたLEDライトが夜道で光り、後方から近づく自動車に自分の存在を知らせる。

電池使わず、必要な時に点灯

 このLEDライトは伊藤忠商事が投資する米国企業が持つ技術を基に製品化した。磁石とコイルを埋め込んだ2つの部品から成り、これに振動を与えて発電させる。ライトそのものは直径が1cmにも満たないが、「暗い中でも十分認識できる明るさを確保した」(エース)。

 原理自体はシンプルだが、磁石部分を輪状にしてコイルを挟み込むようにし、一定方向にしか動かないようにした。つまり、かばんが縦になる走行時の背負った状態では振動によって自動的に発光するが
、横にして手で持っている状態では振動が伝わらず、光りにくくなる。満員の電車内などで不必要に発光しないように配慮したという。

 4種類の新商品の価格は2万~3万5000円で、LEDライトがない商品との価格差はほとんどつけなかった。百貨店などでの反応は上々のようだ。

 安全面に限らず、自転車通勤を考えるうえでかばん選びは重要だ。走行時にはリュックサックのような機能的な形状が理想だが、色を含めて外観がカジュアルすぎると外回りなどの日常業務にそぐわなくなる。またパソコンを持ち運ぶことも考慮すると、耐水性に優れた素材かどうかも重要となる。

 「PORTER(ポーター)」などのブランドを展開する吉田の直営店では、「自転車通勤目的の購入者の間では昨年あたりから、それまでの肩にかけるメッセンジャーバッグなどから、3WAY型に売れ筋が移ってきた」(クラチカ ヨシダ 丸の内の渡辺真理店長)という。

 特に汗をかく夏には、会社到着後にスポーツウエアからスーツに着替える自転車通勤者も少なくない。さらに、かばんまで替えていては手間がかかりすぎる、ということがオン・オフ兼用で使える3WAY型が支持される背景にあるようだ。クラチカ ヨシダ 丸の内では40~50代の男性が自転車通勤用に買い求めるケースが多い。

 最近ではモーターで人力を補助する電動アシスト自転車がパナソニックなどから相次ぎ発売されていることもあり、自転車通勤の需要はしばらく増え続けそう。少子化で急成長が見込みづらい国内のかばん市場だが、数少ない成長分野として今後、各社の知恵比べが熱を帯びそうだ。