2月14日。チョコレート売り場が特需に沸くその日バレンタインデーに向けて、MACスタイル(東京都台東区)の社内は今まさに忙殺されている。

 同社が販売する「DECOチョコ」。一見すると、コンビニエンスストアのレジ横などでよく見かける小型のチョコレート菓子だが、パッケージにオリジナルの写真やメッセージが印刷されている。消費者がおのおのデザインして発注したものだ。

 同社が加工・販売するチョコレート菓子は、チロルチョコ(東京都千代田区)が製造したもの。MACスタイルは、チロルチョコから包装紙の一部が白紙になっている商品を特別に仕入れ、ここに顧客のデザインした画像データを印刷して販売する。

 顧客は、インターネットの専用サイトに閲覧ソフトでアクセスし、その場で手軽にデザインできる。まず、デジタルカメラで撮影するなどした写真や画像データをアップロードする。写真の拡大・縮小も可能だ。次いで、あらかじめ用意されているデザインの枠を適用する。オリジナルのメッセージを入力することもできる。ちょっとした受注生産(BTO=ビルド・トゥ・オーダー)サイトだ。

 加工費含め45個入りで2362円。1個およそ50円と、チョコレート菓子の元の価格から考えると倍以上の価格になるが、デザインを自由にカスタマイズでき、オリジナルの贈り物を作れる魅力で大ヒットした。年間およそ5億円を売り上げている。

“重く”ない手作り感

 大量生産品でありながら、同時に世界に二つとないオリジナル性も兼ね備えた、いわば「カスタマイズ菓子」。MACスタイルは、森永製菓のチューイングソフトキャンディー「ハイチュウ」、味の素が製造するアミノ酸アラニンを主成分としたサプリメント商品「ノ・ミカタ」、UHA味覚糖(大阪市)のキャンディー菓子「e-maのど飴」などでも同様のサービスを提供し、いずれも人気を集める。

 ネスレ日本もチョコレート菓子「キットカット」の包装紙にオリジナルの写真や文字を印刷できるサービスを10箱2100円で提供する。米菓を製造・販売する三州製菓(埼玉県春日部市)では、包装紙ではなくせんべい自体に、天然素材から作られたインクでメッセージやイラストを印刷するサービスを2008年に開始。「既存設備では間に合わず、増設した」(斉之平伸一社長)という人気ぶりだ。

 米P&Gのインターネットサイトでは、ポテトチップス「プリングルズ」のオリジナルパッケージを製作できるサービス「プリングルズPOP ART」を提供。ただしこちらは利用者が自分で印刷して、菓子の外装に貼りつけることを前提とした無料サービスだ。こちらも写真などを取り込める。

 こうした菓子のカスタマイズが受け入れられるのはなぜか。

 既製品を贈るのでは味気ないので、もっと心を込めた贈り物をしたい。とはいえ一から手作りの菓子を贈ると、「重い」、つまり受け取る相手の心の負担になってしまう。そんな消費者心理の綾があるだろう。

 もともと贈答品として購入することの多いせんべいは別として、チョコレートや飴などの菓子について言えば、贈答品のイメージから懸け離れた廉価な大量生産品が、ちょっとした画像やメッセージで心のこもった贈り物に一変するという意外性も人気の理由と言えそうだ。