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 日本マクドナルドホールディングスは2010年12月16日、同社の2010年12月期決算の通期業績を上方修正すると発表した。前回発表の予想数値から売上高で90億円(増減率2.8%)、経常利益で21億円(同8.6%)のプラスを発表できた要因の1つに「7月から投入したチキンメニューが予想以上の反響」だったことを挙げた。

 同社は2010年7月から鶏のモモ肉を使ったサンドイッチ「アイコンチキン ソルト&レモン」やチキンバーの「ジューシーチキン」を販売。特にジューシーチキンは2本190円という手頃な価格設定から幅広い層に支持され、もはやマクドナルドの定番メニューの1つとなっている。

 鶏肉メニューが話題になっているのはマクドナルドだけではない。日本の外食産業全体に、鶏ブームがわき起こっている。

 その理由は何か。消費者からすれば、鶏肉は牛肉や豚肉に比べてヘルシーなイメージが強く、女性の支持を得ている。一方、外食業者からすると、ほかの肉に比べて価格が安価で比較的安定しており、調理方法も豊富だ。

 しかし、それらの理由は何も最近分かったことではない。以前から知られていた鶏肉のメリットが、なぜ今ブームの火をつけたのか。そこには、高齢化や個食の増加、長引くデフレに伴う消費者の意識など、日本の消費社会の構造変化の影響が少なからずある。

行列できる「空揚げ専門店」

空揚げ専門店「縁」の吉祥寺店は、夕方ともなれば行列が絶えない

 東京のベッドタウン、吉祥寺駅から2分の幹線道路沿いに、夕方ともなれば行列の絶えない店がある。空揚げ専門店「縁(ゆかり)」だ。

 縁は持ち帰り専用で広さは数坪という小さな店だが、昨年8月にオープンして以来、主婦だけでなく、会社帰りのビジネスパーソンや高齢者までが行列をなすようになった。

 縁を運営するBAN FAMILY & COMPANY LIMITEDの西川淳会長は、2年の歳月をかけて「秘伝」のタレと粉を開発。実験店舗を経て2010年5月、東京の浅草に1号店を出し、FC(フランチャイズチェーン)を含めて12店舗を出店。いずれの店にも行列ができる人気ぶりだ。2011年内に国内50店舗を目標に掲げる。

 「鶏肉は日本人の食文化の1つとして、十分に浸透している。ただ、牛肉などの陰に潜んで、表に出なかっただけ。空揚げ専門店がなかったことがむしろ不思議なくらい」と西川会長は好調の要因を語る。

 空揚げに人気が集まる理由には、若者や高齢者の個食が増えたこと、家庭で揚げ物をしなくなりつつある点もあるだろう。

 縁は、冷めても硬くなりづらい空揚げを研究、開発したことから、硬いものをかみづらい高齢者からも評判が高いという。

 子供のおやつや夜食、そして酒のつまみにもなる空揚げは、食べられるシーンを選ばない。そのため、老若男女問わず支持されるのだ。

 外食と言えば、なじみが少ない新しい料理や、家庭では再現が難しい複雑な調理法が必要な料理、そして何より、普段は食べられない憧れの料理を食べるという要素が大きかった。

 だが、デフレが長引く今のニッポンで求められるのは、憧れよりも現実的な生活に根づいた商品の傾向が強い。シンプルでなじみがある空揚げが支持される理由は、そんな消費の動向にこそ、あるのかもしれない。