師走が目前に迫り、今年も残りわずかとなった。手帳を改めて見返すと、会議やアポイントがびっしり書き込まれている人も多いだろう。だが、中止になったり時間変更になったりした案件も多いはず。手帳がすっきりと見やすくなれば、来年は仕事の効率も上がるかもしれない。そんな人にぴったりなのが「消せるボールペン」だ。
ボールペンでは通常、文字を一度書くと修正液などを使わない限り消せない。だが手間がかかり、思わず横線を上書きしがちだ。手帳が見づらくなる主因となるが、消せるボールペンはキャップの先などについたラバーでこすれば簡単に消すことができる。
消える仕組みはインクにある。ラバーでこすった摩擦熱で修正したい個所の温度が一定以上に達すると、無色透明になる特殊なインクなのだ。
パイロットコーポレーションによると、インクには発色剤と発色を促す成分が入っており、常温時はこの2つが結合して発色するが、表面温度が上昇するとこの2つを分離させる特殊な成分を組み込んだ。逆に温度が下がりすぎると文字が再び浮き上がる。
消しカスが出ず、多色展開も
パイロットは「フリクション」シリーズを全世界で展開し、消える温度が65度、文字が戻るのが氷点下20度と最大温度差は約80度ある。寒冷地でない限り、実用面では問題なさそう。
インクに特殊な成分が入っているため当初は色がやや薄かったが、材料の見直しでかなり改善したという。消しゴムのようにカスが出ず、色も黒に限らないことから、シャープペンシルよりも使い勝手がいい面もある。
パイロットは2006年に欧州で先行発売し、翌年に国内販売を始めた。今年3月には三菱鉛筆も同様の機能を持たせた「ユニボール ファントム」を発売。消せるボールペンは社会人を中心に利用者が増えている。3000円を超える高級タイプもあるが、200円台と比較的手頃な価格帯の商品も用意しており、需要を後押しする。
パイロットは11月、12色ある消せるサインペンも投入した。手帳のほか、手紙や勉強用ノートをカラフルに書き込みたい女子中高生を主な購入層に想定した。複数のペンを購入するケースが多いため、価格も1本当たり105円と通常のサインペンと同程度とした。出だしは好調で、「一部の雑貨店では早くも品薄状態となっている」(パイロット)という。
ボールペンなどの筆記用具業界では中国製などの安価な製品の流入が続き、国内勢は付加価値のある高機能商品の開発に躍起になっている。消せるタイプではパイロットが先行しているが、三菱鉛筆は書き味が滑らかな油性ボールペン「ジェットストリーム」シリーズの販売に力を入れる。
使用するインクの粘度を下げ、筆記時のペン先と紙との摩擦を減らすことで手の感触を軽くする一方、インクが出すぎないようにペンの構造そのものを見直した。社会人の男性だけでなく、女性向け商品群も展開している。
10月に発表した新商品では、黒を基調とした化粧品のようなデザインなどを用意。「手帳に挿している状態でも、女性にお洒落と感じてもらえるように工夫した」(三菱鉛筆)という。
経費削減の一環で社員への筆記用具の支給を絞っている企業は多く、仕事用のペンを自ら買い求める消費者は少なくない。「どうせ買うなら使いやすく自分好みの商品を」という潜在需要を掘り起こせるか。各社の知恵比べはしばらく続きそうだ。