レポート

取材を通じて新たに発見した半導体製造装置業界の魅力やそこで働くエンジニアの印象

田中文さんのレポート

 一連の取材・ミーティングの感想をひと言で言うなら「半導体製造装置業界へのイメージができた」である。取材するまで,半導体という製品へのイメージはあっても,その製造装置の知識・イメージは皆無だった。

 また半導体製造装置業界は地味だという意見があった。一般への認知度が低いことを地味というならその通りだと思う。テレビや車などの,認知度が高い派手な製品を作っている方が,聞こえがよくて格好よく感じられるのは分からなくはない。

 しかし,生み出したものが派手だろうと地味だろうと,エンジニアが行っていることはきっと同じだ。ある目標を立て,トライ・アンド・エラーを地道に繰り返して現状を目標に近付けて達成してゆくのだ。もちろん,生み出す製品や職種によって,目標とその手段・達成までの期間・プロジェクト人数などは異なるに違いない。学生にとっては,これら「異なる条件」のうち,自分にとって何が重要かを考えて,何を選び取っていくかが就職先を選ぶということなのだと思う。

 何を魅力(良さ)と感じるかは人によって違うため,「半導体製造装置業界の良さ」として何を挙げるのが適切なのか,正直なところとても迷った。それより,半導体製造装置業界に興味を持ってもらうには,まずこの業界自体を知ってもらうことが重要だと感じた。しかし,世の中には情報があふれ過ぎていて,全体像がよく分からない。そこで,今回の取材で学んだことについて以下に簡単にまとめた。魅力については,「私が感じた良さ」とするに留めている。

 以下のまとめも取材記事も,業界のすべてを表せているわけではない。きっかけや判断材料の一つに過ぎないが,多くの方が興味を持って,就職やその他の活動に役立ててもらえればとても嬉しいと思う。

<半導体とは>

半導体という言葉は,二つの意味で用いられている。
1.「導体」と「絶縁体」との中間の性質を持つ物質
2.1の物質を用いて作った素子。ダイオード,トランジスタ,集積回路(IC)などがある。電気製品に使用される電子部品の一つである。1と区別するため半導体素子とも呼ばれる。

<半導体製造装置とは>

・「半導体とは」の2に当たる素子(主にIC)を作るための装置。
・半導体素子を作るには,フォトリソグラフィー・エッチング・研磨・検査・・・など,種類の異なる多数の工程が必要である。
・一つの装置ですべての工程を実施することはできない。工程ごとに装置が開発されている。
・半導体製造で扱うオーダーは nmやµm(工程によって異なる)。
・チリやホコリがあると半導体が故障したり品質低下したりするので,半導体製造はクリーン・ルームの中で行われる。
・各工程を担う各装置の性能が製品の性能に直結する。
・装置開発においては,その装置単体で実現できる性能だけでなく,装置間のバラつきが小さいことも重要。
・半導体メーカーは,各工程の製造装置を組み合わせて製造ラインを構築する。
・半導体製造工程のノウハウは,フラットパネル・ディスプレイ(FPD)などの他製品にも活用されている。

<半導体製造装置業界とは>

・B to Bであり,顧客は企業で,世界中の半導体メーカーが顧客である。
・製造工程ごとにそれを担う装置を作る企業があり,そこでの競合企業数は少ない。
・一つの工程であっても多くの技術ノウハウが必要なため,新規参入が難しい。
・電子機器の需要拡大に伴い,半導体の需要も伸びている。よって,半導体製造装置の需要も伸びている。
・ただし,製造装置の需要は半導体メーカーの設備投資と連動するため,好況時と不況時の売上高の差が非常に大きい(景気に売上高が左右されることが分かっているので,その波があっても会社が存続して成長できるように経営している)。

<私が感じた半導体製造装置開発ならではの良さ・特徴など>

・競合企業数が少ないゆえの緊張感がある。「食うか食われるか。」
・半導体の性能は装置性能に大きく依存する。求められる性能が明確で高い。
・半導体の性能は電気製品の性能に大きく影響する。エンジニアからは「電気製品の性能を司る源泉は自分達が作り出しているのだ」というやりがいが感じられる。
・半導体製造装置内で扱う現象はとても小さい(nm・μmオーダー)ため,理論で説明できない部分が多い。未知の新しい現象や原理の発見にとても近いところにいる。

雨宮美沙さんのレポート

 半導体製造装置業界は日本が世界に誇れる業界であるのに,学生に対する知名度が低い。今回取材した私達は,取材前この業界についてよく知らなかったので,全国の学生の多くも同様ではないかと思う。

 今回取材させていただいたすべての企業は,世界トップ・レベルの力を持っていることを誇りに思い,顧客と密接にコミュニケーションを取りながら技術革新にまい進している。私が今回一番ハッとさせられたことは,何を作りたいかではなくどのように働きたいかが大事ということだ。学生がエンジニアを目指して就活をする際,どんな製品に携わりたいか考え,またその他の様々な条件で企業を探すだろうと思う。そう考えると,半導体製造装置を作りたいと考える学生はそう多くないだろう。しかし,どのように働きたいかを考えると,このような企業で働きたいと考える学生はたくさんいるのではないか。

 実際の働く現場を知ると知らないでは大違いだ。現場を見ることで初めて知ることがある。それは半導体製造装置業界に限ったことではない。今回の経験を通じて,知らず知らずのうちに作っていた自分の偏見に気付くことができた。今回の体験は,私の将来に対する視野を広げるきっかけになった。夏休みが終わって就活シーズンに入ったが,今回一連の記事を読んだ方の視野を広げるきっかけになれば幸いである。

天沼智彦さんのレポート

 今回の学生記者としての活動では,半導体製造装置業界という最初はほとんど関心を持っていなかった業界へ取材に行き,その魅力を発見し,さらにそれを発信するという経験をさせていただいた。理系学生が企業に関心を持つきっかけは,その企業の製品と出会うことである場合が多い。私の場合も,今回のように「記者」という使命を帯びていなければ,普段まったく接点のない半導体製造装置業界に自分から飛び込んでいくことはできなかっただろう。就活とは別の活動として企業を訪れる経験は,自分の殻を破って関心の範囲を広げる上でとても有意義なものだった。

 この数カ月の活動を通じて得たのは,単に「知っている業界が一つ増えた」ということだけではない。まず,製造業の奥深さというものに気付かされた。今まで最終製品のメーカーしか視野に入っていなかったが,最終製品の品質を左右する製造装置業界の存在を知ったことで,より広い視野で企業を見ることができるようになったと思う。また,座談会では雨宮さんが「意外なところで自分の専門分野である技術が使われていることを知った」と発言していたように,大学で学んでいることが社会でどのように役に立っているかは,学生が持っている程度の知識では測りきれないと感じた。つまり,自分が現在の専攻を選ぶに至ったきっかけである企業以外にもどんどん接触してみなければ,自分の将来の可能性を狭めてしまうかも知れないということだ。

 さらにもう一点,実際に研究開発の現場を見たことで,世の中には本当に多くの技術課題があるのだと実感させられた。学生である自分には,これだけ発展した世の中で,一体何ができるだろうかという不安があった。しかし,今回取材したCMP(化学的機械的研磨)装置のプロセス開発に限っても,あれだけの課題があった。製造業全体を見渡せば,これから社会に飛び出す自分たちの活躍の場はいくらでもあるのだ,と前向きに感じることができた。

 今回の活動では,知識を得ただけではなく,多くの人と出会った。このような経験もこれから自分の力になっていくと思う。たくさんの刺激を与えてくださったエンジニアの方々,とても生き生きとしていて取材の過程を楽しませてくださり,また様々なことを教えていただいたTech-On!編集部の皆様,そして自分と違う視点からいつも鋭い意見を出してくれる学生記者仲間の雨宮さんと田中さん(3人の記事は,事前にまったく内容を打ち合わせていないのにも関わらず,いつもまったくと言っていいほど違う切り口からの記事になっていた)。

 こうしたたくさんの出会いや経験を得た今回の活動は非常に貴重なものだった。学生記者として活動する機会をいただけたことに本当に感謝したい。私の記事が,同じ理系学生の方々の関心を広げるきっかけになれば幸いである。