社会人になるとは、常に人の評価にさらされ続ける存在になることである。とりわけあなたが手がけた仕事の成果への評価は、あなたの存在意義と言うと大げさなら、あなたの市場価値に直結する。
 …などと書かれると、やはり不安になってしまいますよね。「厳しい評価に耐えられるだろうか。めげず、へこまず、モチベーションを維持できるだろうか」。そんなふうに自らに問いかけた読者もいらっしゃったに違いない。
 そこで今回は、社会に出て、厳しい評価に遭っても落ち込まず、むしろマイナス評価を自らの糧としてプラスに有効活用するためのとっておきの法則を紹介したい。
 それは「評価3割引きの法則」すなわち「仕事の成果に対する他人の評価は多くの場合、自己評価の3割引きになる」という経験則である。

 手前味噌で恐縮だけれど、僕自身の経験を紹介したいと思う。
 僕は2002年4月、比較的若い世代に向けたビジネス雑誌である日経ビジネスアソシエを創刊し、2007年末まで編集長を務めたのだが、編集長として雑誌作りの指揮を執りはじめた当初、いきなり思ってもみないギャップに悩まされた。
 毎号の売れ行きが「今度の号はこれだけ売れるぞ」という自分の予測を常に下まわってしまうのだ。
 企画の斬新さや普遍性、内容の面白さから「この号は6万部は売れる」と予想しても実際は4万部台の前半がいいところで、「今度は5万部がせいぜいかもしれない」と不安を感じた号にいたっては3万部台に落ち込んでしまう。
 やがて僕は自分の予想と読者の評価に3割前後のずれが存在するのに気づいた。多くの場合、実売部数は予想部数の7割前後なのだ。

 そんなある日、出席した会合で、僕は日ごろ感じていた自己評価と他人の評価のギャップについて何人かのビジネスパーソンに打ち明けた。相手の反応は当時の僕には意外だった。
「それって、わかるわ」
 食品メーカーのマーケティング担当者は何度も大きくうなずいた。
「私も手がけた商品の売り上げをいつも大きく見積もってしまいます。期待が大きすぎるんでしょうね。実際の売り上げはその3割引きというのも、実感としては一緒ですね。そう言えばファーストリテイリングの柳井正さん(社長兼CEO=最高経営責任者)も人は自分の仕事の成果を過大評価しがちだとアソシエでおっしゃっていましたよね」
 証券会社に勤める男性も同意した。
「私の会社では仕事の成果に応じてボーナスが支払われます。その金額はだいたいのところ期待した金額の2割から3割引きですね。今はもう慣れたけれど、最初はなぜもっと評価してくれないんだろうと不満たらたらだったな……」

 もちろん、彼らが言う3割は印象としての大ざっぱな数字で、厳密に検証したわけではない。しかし僕にとっては目からウロコが落ちるやりとりだった。
 手がけた仕事への自己評価と他人の評価には職種・業種を問わずギャップが存在する。その大きさは実感としては3割程度である。
 そう言われてみれば、なにも雑誌の売れ行きを持ち出すまでもなく、企画書や報告書の出来映えが自分ではいいと思っていたのに周りからはそれほど評価されなかったり、仕事でそれなりの結果を出していたと自負していたのに人事考課が期待はずれだったなどという経験は、ビジネスパーソンならだれでも一度や二度はしているはずだ。
 自己評価と他人の評価のギャップは、どうやら仕事には抜きがたくつきまとう本質的な問題らしい──その時、そんなふうに痛感したのだった。