工作機械は“マザーマシン,母なる機械”と呼ばれる。工作機械とは“機械をつくる機械”のことである。

機械はその多くの部分が金属でできている。その部品も金属である。その金属を削ったり穴を開けたりすることで思い通りの形状,精度の部品をつくるのが工作機械の仕事である。

たとえば自動車の部品はとても精度高くつくられている。そうでなければ安全・快適に自動車に乗ることはできない。工作機械は,機械の“基”をつくる機械だから,それらの一般の機械よりも精度が高くなければならない。工作機械は,一般の機械とはレベルも性質も異なる“使命”をもった機械だと言える。

何でも“工作機械”がつくる

 自動車は,エンジンやシャフトなど,金属部品の固まりだ。もっとも,金属以外にタイヤもあれば,内装にプラスチックも沢山使われている。ところが,このタイヤやプラスチックをつくるためにも金属が使われている。タイヤやプラスチックは“金型”で成形されるからだ。金属を削って自動車のシャフトをつくるのも工作機械なら,金属の固まりからタイヤの金型をつくるのも工作機械である。

 中学校や高校の授業で,旋盤やボール盤を触ったり,実際に加工したりした経験のある人もいるかもしれない。しかし,工作機械は旋盤やボール盤だけではない。現在では手で操作するのではなくNC装置で高度に制御される工作機械が一般的だ。ドリルやエンドミル,バイトなどの切削工具で,複雑な加工を行うマシニングセンタやNC旋盤,また砥石を使って高精度な加工を行う研削盤,さらに,放電やレーザ光を使って加工する工作機械など,その種類は豊富にある。

ノウハウと技術の固まり

 産業が発展していく形態はさまざまだ。たとえば“半導体産業”と“自動車産業”は,どちらもかつて日本が世界のトップを占めた産業である。しかしその後の歩みは異なっている。半導体産業は“設備産業”と言われ,製造設備さえあれば,世界中どこに行っても同じ製品をつくることができる。それに対して自動車産業は,“摺り合わせ技術が必要な産業”と言われる。自動車は,それぞれが別々につくられた部品を集めてつくられるが,そこに高度な“摺り合わせ技術”が必要とされる。それによって初めて良質の自動車を生産できる。

 かつて世界リードしていた日本の半導体産業だが,新興勢力に対してその優位性を維持することはできなかった。一方自動車は,一朝一夕には取得することが難しい“摺り合わせ技術”が必要な産業であるため,今後すぐに日本の強さが揺らぐことはないと言われている。

ヤマザキマザックの同時5軸制御マシニングセンタ「HYPER VARIAXIS 630」
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 “工作機械産業”はと言うと自動車産業のそれに近い。むしろ自動車の場合に必要な“摺り合わせ技術”以上に,さらに高度な経験,ノウハウ,組立技術が要求される。工作機械は,“ノウハウと技術の固まり”だ。日本の工作機械が,長く世界で君臨してきた理由の一つがここにある。几帳面,丁寧さといった日本人が持つと言われる特性も,工作機械づくりには適している。蓄積された高度なノウハウ,卓越した設計力,加工技術・組立技術に加えて,高度な周辺技術,最新のIT技術などが融合して,日本の工作機械が形成されている。それらすべてを自社内,もしくは国内に持つところに日本の工作機械メーカーの強みがある。

 日本には,ヤマザキマザック,森精機製作所,オークマなどを始め,世界のトップグループを形成する優れた工作機械メーカーが多数存在している。また,規模ではこれらのメーカーに及ばないものの,世界で認められた誰もマネのできない独自の工作機械を造って,世界の製造業に貢献している工作機械メーカーもまた多数ある。

日本の工作機械は世界のトップ

 日本の工作機械は,“世界一”と言って過言ではない。27年間,工作機械の生産において日本が世界のトップだった。残念ながら2009年,リーマン・ショックの影響で,大きく生産量を減少させた結果,世界3位となった。ちなみに1位は中国,2位はドイツである。しかし,それまで27年間1位であったことから分かるように,その実力は折り紙付きだ。2010年の日本の工作機械は,その生産を大きく回復しつつある。これからも日本の工作機械が,世界の市場と技術をリードして行くことに間違いはいない。

 工作機械が一般の人々の目に触れることは多くはない。しかしその国の産業を形成する土台として非常に重要な地位を占めている。昔から“工作機械産業の力が,その国家の力を示す”と言われる。つまり,工作機械が強い日本は国として,とても大きな強みを持っているということである。

 工作機械は,高度な設計技術,精密な機械組立技術,最新のコンピュータ制御技術など,豊富な経験と最先端の技術の両方があって初めて完成する,極めて特異な製品である。次世代の航空機,IT製品,自動車,産業機械などを生産するために,さらに優れた工作機械が必要とされる。すべての条件を兼ね備えた日本の工作機械が,今後も世界中のものづくりを支えていくのは間違いない。