私は多くの特許を出願し、事業に役立てたいと努力してきた。この経験から事業に役立つ特許に必要な発想の性格が分かってきた。それは新規性、必然性、顕現性と言う三つの特性である。

「新規性」を支える三つのコツ

 新規性とは、今までに無い新しさを言い、特許発想の一丁目一番地である。独創性と言っても良いかもしれないが、そう言うとなかなか縁遠いものと思われがちであるので、そんな肩肘を張ったものでなくても良い。過去に例が無ければ良いのであって質の良さはまずは問わない。特許における質の良さとは必ずしも皆が思っているような深遠な学問に支えられているものではない。質の良い特許とは有効な特許のことである。新しさを求めるあまり、時々奇をてらった新奇性になることもあるがそれでも構わない。どんなことをしても今までにない新しいことを発想できること、まずこれが特許への登竜門であろう。

 新しい発想にはコツがある。私のコツを紹介しよう。特許を考える時にエンジニアが陥りやすい落とし穴がある。それは作る側からばかり発想することである。エンジニアはどうしてもこうなりがちであるが、翻って「使う側の視点」。これが第一のコツである。

 使う側には作る側にはない視点がある。デザイン性、操作性(使い勝手)、メンテナンス性、周りの機器との相性などである。例えば、機器の前面右下に凹みを付けて持ちやすくすれば、老人子供にも便利であるとすると、その凹みを本体と組み合わせて特許にする。こういうものは特許になれば強い。

 第二のコツは「引き算の視点」である。人は新しいものを考えようとすると多くは機能や付属品を付け加えようとする。引き算はその逆張りである。あらゆる部分に対してこれを無くしてみたらどうなるのか、もっと革新的に良くならないかと発想するのである。私はこれをレスの文化(ペーパレスのレス)と呼んで推奨している。面白いものでは、半導体関連で電池レス、パッケージレス、テスタレスと言うプロジェクトも作った。

 第三は「極端の視点」である。いろいろな条件を極端にしたらどうなるかと言う発想である。例えば、電子機器の寿命は10年が常識であるが100年や1000年持てるようにできないかと発想する。そうすると法隆寺は1500年も長持ちであるが、何か学ぶことはないかと発展する。法隆寺を見ると分かるが、全て寸分の狂いも無くきちんと作るよりも、やや遊びを持たせて作る方が耐震性もあり長持ちしやすいことが分かるだろう。これを電子機器の製造にどう応用するかなどを思う時、夢は大きく膨らむ。

「必然性」にはセンスも重要

 必然性とは、ある問題を解決するのにいろいろ方法がある中で、その技術が最もふさわしいものであり代替手段がないような方法を見いだすことだ。工学は理学と違ってこれが正しいという唯一無二の答がある訳ではない。ある問題に対してはいろいろな解決方法があるし、ある目標に対してもいろいろな実現方法がある。どれが使えるかは社会にどう役立つかから見た性能やコスト等の様々な評価軸で判断する。どれが良いかは十人十色の結果が出てもおかしくはないし、時代が変わればそれも変わっていく。しかし、人や時代が変わっても必然的にそうならざるを得ないという技術や方法がある。これを技術の筋が良いともいう。そういった筋の技術を嗅ぎ分けるのが必然性である。