取材レポート

雨宮美沙さんのレポート

 “日立”に取材に行けると知った時,『やった!日立に行ける!』と思った。というのは,日立は物心着いたころから「♪この~木なんの木気になる木~♪」でお馴染みだったし,家に日立製品がありそうだし(実際に探したらたくさんあった),さらには日立への就職内定者が周りに数名いたので,勝手に親近感を感じていたからだ。

 取材前日,インターネットで「日立」を検索してみた。さすが日立。日立製作所のホームページを見ると,異常なまでのグループ会社の量!しかも国内に留まらず国外まで!すごいな~と思いながら,アイコンをクリックしてページを進んでいくと「よくアクセスされるグループ会社」の3位に“日立ハイテクノロジーズ”の名前があった。『こんなにもグループ会社がある中で3番目にアクセスされるということは,実績があって有名なんだな~。ふむふむ』と思いながら,日立ハイテクのホームページに飛んでみた。理解できるものからできないものまでたくさん載っていて面白い。ホームページにおける位置付けを見る限り,「半導体製造装置・評価装置」が主力なのだなと分かる。明日を楽しみに眠りについた。

 上野駅で乗り慣れていない電車に乗り,日立ハイテクの那珂事業所へ向かった。下車駅からタクシーで日立ハイテクへ向かうとき,途中にある日立グループの工場の多さ,大きさに驚いた。向かう早々知ったのだが,日立ハイテクは需要急増のために取材の時間をあまり取れないそうだ(といっても結局,親切に取材に応じて下さり,予定時刻をオーバーして教えて下さった)。

 実際,半導体製造装置業界は急回復しており,2010年7月後半に日立ハイテクは同年度9月末までの業績予想を上方修正していた。半導体業界には“シリコンサイクル”というものがある。このシリコンサイクルとは,半導体業界の4年ごとの浮き沈みが特徴の景気サイクルのことである。さらに半導体業界自体は長期的に見れば伸びている。半導体製造装置業界は半導体業界に依存するため,半導体製造業界も伸びていくということだ。世界が発展していけば電化製品も増えるわけで,それによって半導体需要は半永久的に存在し,さらには半導体製造装置の需要も半永久的に存在することになる。

 まずは企業概要を教えてもらい,その後に歴史を感じる建物の中で,試作や組み立てをする場所を石島さんと大南さんに案内していただいた。ただ残念だったのは,見学時間がお昼休みと被ってしまい一部ひっそりしていたことだ。しかし,お二方の話を聞き想像を膨らませることができた。なんでも,試作をする技術者がいるのだが,やっぱりそこには熟練の方がいて,「あの人にしかできない」「あの人にやってもらうのは緊張する」といったことがあるらしい。

 日立は歴史がある企業だからこそ,そういう関係性が生まれるのだろう。技術を支えているのは精密な作業が得意である熟練の方なのだ。また,大南さんはデスクワークが半分,実験が半分で仕事をしているそうだ。日立ハイテクの強みを聞いた際に「チームワーク力」「現場力」とお答えいただいたことからも,「テクノロジー」よりも「技術」という言い方の方がしっくりくると思った。技術者が自らの手を使って試行錯誤を繰り返し作っていく。そんな印象を受けた。

 肝心の世界シェアNo.1検査装置だが,仕組みの概要は電子顕微鏡を使って半導体ウエハー上の異物や欠陥(断線や導通不良,寸法不良)を見付け出し,それらを分類・解析するというもの。そうすることで歩留まりを向上させることに役立つのだ。ちなみに,この電子顕微鏡が走査型電子顕微鏡(SEM)であり,測長SEMの研究開発で日立ハイテク社長の大林氏は「IEEE Ernst Weber Engineering Leadership Recognition」や「大河内記念生産賞」などを受賞している。そういう出来上がっている製品ではどこを改良するのだろうと思ったのだが,それは単純で早く大量に正確に検査することを目指すのだ。半導体のキーはコスト削減にかかっている。顧客の無理な要望も多いそうだ。しかし,そういう要望をクリアしていくことでより良い製品が生まれ,信頼を勝ち取りNo.1を保っていける。

 ただ,そういう安定した業界に野望が大きい学生が魅力を感じにくいのも一つの事実だ。その点について尋ねると,「新しいアイディアを発想する力には欠けるが,出来たものをより良いものにする力に長けているのが日本人。だから,半導体製造装置業界は日本に合ったビジネス・モデル。もちろん絶対安定した業界など存在しない。もしかすると,いつかは半導体だってなくなるかもしれない。ただ,流行りの業界が長く続く可能性は低い。目立つ業界に行きたがるのは危ないと思う。また,この業界は学生には地味に見えるのかも知れないが,それは学生が知らないだけで,この業界は華やかな存在だと思っています。」

 「半導体製造装置業界が地味という印象」という私の発言に,お二方は驚いていた。私は,驚かれることにも驚いた。現場と学生のギャップはどうして生まれてしまうのだろう。「優秀な学生に来てもらうためにも,大学との共同研究をもっと進めるべき」ともおっしゃっていた。余談としてどんな学生が良い(優秀)かを聞いたところ,「勉強は,必ずしもしてこなくてもよい。むしろ,コミュニケーション力や社会全体を見る力,特に有言実行ができるような,やるべきときにやれる人材が欲しい」とおっしゃっていた。私はこの言葉をやる気のある人材ということだと解釈した。実際,石島さんは現在早稲田大学のビジネススクールに通っているし,大南さんは米国に留学していたそうだ。自己を高め続ける石島さんと大南さんは凄い。日立ハイテクはやる気のある人を認め,そしてサポートしてくれる会社なのだと思った。

 私のように,まだ就職活動していない学生はあまり企業を知らない。だからといって,就活経験者が企業に詳しいとは限らない。学生が様々なことを知ろうとしても日立ハイテクにたどり着くかわからないし,見付けても上辺の情報しか分からない。このジレンマを学生はどうするべきなのだろうか。

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