働くこと,仕事をすることの意味とは何でしょうか? 経済的に自立するため,自分を磨くため,社会に貢献するため,自己実現のため……。その答えは,きっと人によって様々でしょう。

 社会に出て仕事をするようになると,目先の仕事に追われて本当にやりたいことができなかったり,社会の理不尽を目の当たりにしたりして,「いったい自分は何のために働いているのか?」と思い悩むことも少なくありません。そんなときに,「働くことの意味」に対する答えを自分で持っていると,前に進むキッカケになってくれることがあります。

 「働くことの意味とは?」と聞かれても,ピンと来ない学生の皆さんもいらっしゃるかもしれません。答えは一つではありません。きっと,皆さん一人ひとりが考えたりいろんな体験をしたりしていく中で,見つけ出していくものだと思います。

 今回のコラムでは,この「働くことの意味」を考えさせてくれる,ある会社の話を紹介します。日本理化学工業という,チョークを製造している会社の話です。学校で先生が黒板に板書するときに使う,あのチョークです。数多くの本や雑誌,テレビ番組などで取り上げられているので,ご存知の方も多いかもしれません。私は1~2カ月前のテレビ番組で知ったばかりですが,働く意味を改めて考えるキッカケを与えてくれました。まだご存知でない学生の皆さんも大勢いらっしゃると思いますので,ここに紹介します。

不憫に思って受け入れた知的障害者の実習生

 日本理化学工業は,チョーク製造の国内大手メーカーであると共に,知的障害者の雇用に力を入れている会社として知られています。なんと全体の70%以上が知的障害のある社員であり,障害を持たない社員と一緒に働いています。

 なぜ,同社はこれほどまでに知的障害者の雇用に積極的なのか。

 話は,まだ知的障害者がほとんど就職できなかった時代,1960年ごろにさかのぼります。日本理化学工業の当時の専務さんのところに,知的障害者の通う養護学校の先生が訪ねてきました。翌年卒業する生徒の就職依頼です。その専務さんは,最初は門前払いのような形で断っていました。しかし,養護学校の先生の訪問は続きます。最後は「生徒たちは卒業したら福祉施設で暮らすことになります。そうなれば働くことを知らずに一生を終えます。働く経験だけでもさせてもらえませんか」と先生から懇願され,専務さんはかわいそうに思って,2週間の期間限定で実習を受け入れることにしました。

 実習に来た彼女たちに,専務さんはラベル張りの仕事を与えます。チョークの箱にラベルを張る仕事です。彼女たちは,2週間にわたって,一心不乱にラベルを張り続けました。最初は,ラベルが曲がっていたり,しわが寄っていたりするなどの不良を出していましたが,次第に上達し,最後はラベル張りの仕事を立派にこなすまでになりました。

 工場で働く社員や専務さんが驚いたのは,その上達ぶりもさることながら,彼女たちが仕事に対してとても熱心だったことです。毎朝,誰よりも早く出勤し,昼食の時間も忘れるほどラベルを張り続けていたそうです。2週間の実習期間が終わるころ,彼女たちの姿に胸を打たれた社員たちは,「これからも彼女たちをここで働かせてあげてください」と直談判するために,専務さんの部屋を訪ねました。社員たちの訴えを聞いた専務さんは,要望に応えて,知的障害を持つ彼女たちを正社員として雇うことにします。それから,毎年のように,少しずつですが知的障害者を採用していくことになりました。