私は,1980年代後半から1990年代初頭に入社した人たちのことを指す,いわゆる「バブル世代」の一人である。当時,就職活動をする学生は引く手あまたで,企業の就職担当者は「いかに早く,かつ多くの学生を確保するか」を競っていた。私が所属していたサークルでは,あるOBが大学に突然やって来て,「ウチの会社に全然興味がなくてもいいから,とりあえずここに名前と連絡先を書いておいて」などと言いながら,その場にいた4年生にあたり構わずエントリー用紙を配っていたことを覚えている(なかには3年生もいた)。

私の場合,大学院にいくことが決まっていたので,まだ就職しないことを伝えると,「それでもいいから,とにかく書いてくれ」という状況だった。そのOBは「ノルマがあるので,名前を書いてくれる学生の数さえ集められれば,とりあえず誰でもいいんだよ」とも言っていた。私は「そんな適当でいいのか!」と思いつつも,先輩に逆らうこともせず(私が所属していたサークルは,正確にはサークルではなく,大学公認の体育会系の同好会だったため,上下関係が比較的厳しかった),その用紙に自分の名前などを素直に書き入れた。その代わり,というわけでもないのだが,ランチをご馳走になったりして,多くの学生が「ラッキー!」などと喜んだものである。今,考えると,企業も学生も相当ゆるかった。

 翻って,現在。「就職氷河期」「就職難」といった文字を新聞や雑誌などで,よく見かける。自分がどの時代に生まれたのかによって,就職状況をはじめ,自分たちではどうしようもできない運/不運があるなとつくづく思う。ただ,それに一喜一憂していても,仕方がない。まずは,現在の状況を直視してみよう。すでにご存じかもしれないが,先日,「ディスコ」という会社が2011年3月に卒業予定の大学生(現在,大学4年生と修士2年生)モニター2000人を対象に,4月1~11日に実施した就職活動状況調査の結果(回答数907人)が発表されたので,紹介したい。

 それによると,エントリー社数の累計は4月時点で81.6社(前年同月72.4社)だった。この数字は,2004年にこの形式で調査を始めて以降,最も多い数字という。4月1日現在の内定率は17.5%で,前年同期調査と同じ水準だった。「卒業目前でも,なかなか就職先が決まらなかった先輩たちの姿を目の当たりにし,大手企業ばかりでなく中堅中小企業にも目を向けるといった学生の意識の変化もあったようだ。内定獲得を主眼とした“現実路線”を選ぼうとする傾向があるのでは」と,ディスコは分析している。また,例年苦戦しがちな女子学生の方が,内定率が高いという。「危機感から着実に内定を得た結果といえそうだ」(ディスコ)。

 私が今回の発表で着目したのは,次の調査結果である。「76.8%が“持ち駒”を増やす必要性を感じている」という点。就職活動で「持ち駒」という言葉が使われていることを初めて知った。4月1日現在で就職活動を継続している学生(モニター全体の94.8%)に,現時点での“持ち駒”数を聞いたところ8.1社と,前年同期調査(7.7社)より微増にとどまっていたという。また,「持ち駒企業を増やす必要性」については,76.8%が「感じる」(「強く感じる」と「やや感じる」の合計)と回答したようだ。

 クルマで送り迎えをしてくれる男性のことを「アッシー」,食事をおごってくれる男性のことを「メッシー」などと女性が呼んでいたバブル世代の私にいわせれば,持ち駒とは本命の彼とうまくいかなくなったときのために,予備として確保しておく男性「キープ君」に相当する企業ということになるのだろう。

 就職活動は,いよいよ佳境を迎える。皆さんが「本命君」をできるだけ早くゲットできることを陰ながら応援している。