3月という,学生の皆さんにとって節目の月に入って1週間が経ちましたが,いかがお過ごしでしょうか。4月からの新学期に,期待と不安が交錯している学生の皆さんも多いと思います。

 昨年10月に就職活動を始めた大学3年生や修士課程1年生の皆さんも,4月からはそれぞれ大学4年生と修士2年生になります。特に大学4年生となる理系学生の皆さんは,研究室の配属先も決まり,専門研究を楽しみにしている方も多いことでしょう。就職先として志望する業界や企業についても「自分の中で固まってきた」という学生さんも多いかもしれません。

 ただ,志望する企業の採用人数が少なくて,がっかりしている学生さんもいらっしゃることでしょう。企業の業績が回復傾向にあるとはいえ,一度絞り込んだ新卒採用の枠が,すぐには元に戻らないのも事実です。でも,現状をただ嘆いたり,いたずらに焦ったりしても,良い結果につながることはほとんどありません。ここは,あえて「視野を広げるチャンス」と捉えてみませんか?

 自分の専門分野だけを見ていると,知らずしらずのうちに視野が狭くなりがちです。これは,私が専門誌の記者として身をもって経験してきたことでもあります。どうしても,その分野の常識や通念にとらわれてしまうのです。それで,記事を執筆する際に,読者に新たな視点を与えるような斬新な発想が出てこなくて,何度となく苦しみました。後から思い返すと,突破口は,専門の枠を超えたところに結構ありました。

 「採用が少ない」「志望する企業には入れそうもない」とがっかりしている学生の皆さんも,自分の専門の枠を超えて,業界や企業を調べてみてはいかがでしょうか。少し視野を広げてみるだけで,視界がぱっと開けてくることでしょう。視野を広げた分だけ選択肢が増えるのですから当然です。最初から“対象外”と判断していた企業や業界でも,改めて調べてみると,意外に自分に合った業界や企業が見つかるかもしれません。

 視野を広げる対象は,業種や分野だけに限りません。「地元企業」「就職できそうな企業」というような理由だけで,初めから選択肢を狭めているとしたら,一度その枠を取り払って考えてみることをお勧めします。自分の可能性や潜在能力を,自分で否定する必要はありません。

 会社に入ってから,会社の方針変更や組織の再編,プロジェクトや事業の整理などで,職場や職種が変わってしまうことは,ままあります。私が専門誌の記者だった時の取材先を見ても,学生時代の同級生を見ても,そういう体験をされた人たちの方がむしろ多いかもしれません。そして,数え切れないほど多くの方々が,新しい会社や部署,仕事で大いに活躍されています。

 「人間いたるところ青山あり」という言葉があります。小学館のデジタル大辞泉によれば,「故郷ばかりが骨を埋めるべき土地ではない。大志を抱いて,郷里を出て大いに活動すべきである」とあります。決意して新たな職場に飛び込み成果を出した,かつての取材先の方に教わった言葉です(ちなみに,人間は「じんかん」,青山は「せいざん」と読みます)。

 その方は「故郷」を「元の職場」になぞらえていたのですが,「故郷」を「専門分野」としてみても良いと思います。専門分野だけがすべてではありません。専門分野に閉じこもることなく,専門をベースにしつつ広い視野に立って,自分の可能性を考え,自分が生きる道を調べてみてはいかがでしょうか。

 また,「故郷」を文字通り「地元」になぞらえることもできるでしょう。もちろん,自分の本当にやりたいことが地元にあるなら,話は別です。しかし,大きな理由もなく「地元」の企業を選ぶのであれば,一度は地元の枠を超えて再考してみることをお勧めします。知らないうちに,自分の可能性や本当にやりたいことを,自分で封印してしまっているかもしれません。

 最後に,このコラムの読者の中に,もし就職活動中のお子さんを持つ親御さんがいらっしゃいましたら,お願いがあります。お子さんに就職してほしい企業や業界を,あまり強く言わないでくださいね。むしろ,親御さんだからこそ視野を広くして,お子さんの可能性を広げてあげてください。どうぞ,よろしくお願いいたします。