「セミコン・ジャパン」の学生向け企画「The高専@SEMICON Japan」に,今回初めて一般の高校,しかも女子高生が参加した。茨城県立水戸第二高校である。今回,同校の地学部のメンバーが参加し,自作の天体望遠鏡を特設ブースに展示した。展示していた天体望遠鏡は2台。一つは,天王星の発見者として知られる18~19世紀の英国の天文学者ウィリアム・ハーシェルが当時製作していた,青銅鏡による反射望遠鏡を再現したもの。もう一つは,湾曲させたガラス板を反射鏡に使い,軽量化を図り移動させやすくした反射望遠鏡である。いずれも,月のクレーターなどの観測に成功している。

自分の手で研磨した青銅鏡で,月のクレーターや土星の環を観測

ハーシェル望遠鏡の再現に挑戦した水戸第二高校3年の石井詩織さん
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石井さん達が製作した青銅鏡による反射望遠鏡
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石井さん達が磨き上げた青銅鏡
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 ハーシェル望遠鏡の再現で中心的な役割を果たしたのは,水戸第二高校3年の石井詩織さんだ。同校の地学部は,以前にもハーシェルの望遠鏡を再現したことがある。2006年には,その成果をチェコで開かれた国際天文学連合総会で発表し,注目を集めた。

 子供の頃から宇宙が好きだった石井さんは,同校に入学すると,地学部が天体観測に力を入れていることを知り,その門を叩く。地学部には,先輩部員が製作した望遠鏡が展示してある。入部した石井さんは,先輩が再現したハーシェルの7フィートの金属鏡望遠鏡を見て,同級生達と共に衝撃を受ける。その望遠鏡は,先輩達がハーシェル望遠鏡に詳しい日本プラネタリウム協会の福村治雄氏の協力を得て鋳造し,レンズやミラーの研磨加工を得意とする日高光学研究所で研磨した主鏡を使っていた。

 それを見た石井さん達の心の中に「次は自分達で鏡を研磨してみたい」という思いが沸々とわいてきた。そこで,望遠鏡製作に関する資料を調べたところ,一般の人でもガラス鏡を研磨できることを知る。ガラス研磨の経験を持つ顧問の岡村典夫先生の助言もあり,石井さん達はガラス鏡の研磨方法を応用して金属鏡の研磨を始めることにした。鋳造,成型した青銅鏡の鏡面全体が,外光を反射して光っているように見えるまで,ひたすら研磨し続けた。

 研磨は,粗研磨と精密研磨という,二つの工程に大きく分かれる。粗研磨は,細かい研磨材を鏡と凸状の円盤の間ですり合わせて加工していく。鉄の円盤と粒径の違った5種類のカーボランダム砂を研磨材に使って,段階的に研磨を進めていく。さらに細かい砂を使って研磨する際には,「鉄ではなくガラスの円盤を使っての研磨が有効」という専門家の助言を参考にした。石井さん達は,凸状のガラス円盤も自作する。まず,厚さ7mmの岩石研磨用ガラスを岩石切断機で多角形に切り,ダイヤモンド入りやすりで直径120mmの円盤状に削る。次に,凹鉄皿で凸面に成型する。研磨材と水を排出するための溝も,岩石切断機で入れた。このガラス円盤を,手製の研磨台の上に固定し,さらに少しずつ研磨していった。研磨材と水の比率も,石井さん達が試行錯誤の上,最適な値を見いだしたという。

 粗研磨が終わった段階では,まだスリガラスのような状態に過ぎない。望遠鏡に使えるような鏡にするには,もっと細かい粉で精密研磨する必要がある。精密研磨は,研磨材を鏡とパッド盤またはピッチ盤の間で擦り合わせて加工する。石川さん達は,まずパッド盤の作製から始めた。研磨に使用する液も,様々な材料を試して,最適なものを見つけ出したという。精密研磨では非常に細かい粉を使うため,研磨盤と鏡面がより密着して,鏡面に傷が付きやすくなる。そこで,こまめに超音波洗浄しながら鏡面を確認する必要があり,とても時間がかかる。どんなに磨いてもなかなか傷はなくならず,ひたすら研磨を続ける日々が続く。

 そして,入部から1年半近くが経った2008年9月,石井さん達の地道な努力が報われる時が来た。研磨し続けてきた鏡を赤道儀式の架台に搭載し,学校の屋上で月を観測すると,コントラストは低いながらもクレーターを観測することができたのだ。

 ようやく月のクレーターを見ることができたが,石川さんはまだ満足していなかった。目標としていた土星の環を見ることが,できなかったからである。そこで,石川さんはこれまでとは違う精密研磨に挑戦する。パッド盤に代えて,アスファルト材を利用したピッチ盤を新たに製作し,これを使って青銅鏡をさらに研磨することにした。結果が表れたのは2009年5月。石川さんが粗研磨を始めてから,既に2年が経っていた。ピッチ盤で研磨した鏡を経緯台式の架台に搭載して観測したところ,土星の環を初めて見ることができた。8月には,木星の縞模様の観測にも成功している。

動画 青銅鏡を使ったハーシェル望遠鏡を再現(約1分33秒の動画)
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