出展小間数は半減,出展者数は約4割減,来場者数は3分の2に減少――。2009年12月2~4日に幕張メッセで開催された「セミコン・ジャパン 2009」は,“リーマン・ショック”以降の大不況が半導体業界に与えた影響を否応なく感じさせた。こうした沈滞ムードを吹き飛ばすかのように,展示会場内に活気をもたらしていたのが,「The高専@SEMICON Japan 2009」企画に参加した学生達だ。The高専@SEMICONは,半導体製造装置メーカーが自社出展ブース内に特設ブースを設け,高等専門学校(高専)などの学生に研究発表の場を提供する,学生向けの企画である。今回は,厳しい経済環境にもかかわらず,協力企業が1社増えて5社となった。参加校も2校増えて6校となった。The高専@SEMICON企画の継続,発展への思いなどについて,2008年の企画立ち上げ時から中心的な役割を果たしている東京エレクトロンの竹中博司社長に聞いた。(聞き手は,田中 直樹=Tech-On!)


――100年に一度とも言われる大不況によって厳しい事業環境にある中で,「The高専@SEMICON」企画を継続したことについて,竹中社長の思いを聞かせて下さい。

東京エレクトロンが提供した松江高専ブースの前で,学生とともに笑顔を見せる竹中博司社長(中央)
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 半導体業界の成長は,技術革新を絶えず続けられるかどうかにかかっています。これからずっとこの業界が成長していくために,日本の次の時代を支える優秀な理系の学生に,実社会の場で研究成果を発表できる機会を提供し,学生にモチベーションを与えたい。そういう思いを持っています。

 われわれのリクルート活動として,高専企画を実施しているわけではありません。「ものづくり国家・日本」を,われわれが次の世代に引き継いでいく義務がある,という思いゆえです。ものづくりに志を抱いている若者に元気を与えたい,という思いが純粋にあります。

 学生達も「セミコン・ジャパン」という実社会の場で研究成果を発表すると,「もっと頑張らないといけない」とか「ほめられた」とか色々な思いを持つでしょう。そのことが,「また頑張ろう」という気持ちにつながるはずです。それがこの企画の最大の目的だと思っています。こうした活動がずっと続いた後に,例えば「この業界に入りたい」「この会社に入りたい」と,やる気のある学生が言ってくれるのでしたら,もちろん大歓迎です。

 このような取り組みは,不況だからやめたり,好況だから特別に規模を拡大したりするのではなく,一定以上の規模で継続していくことが非常に重要です。それほど大きな費用がかかるわけでもありませんし,「不況だからやめる」という考えは全くありません。

――今回のThe高専@SEMICON企画の特徴は何ですか。

 まず,参加校が増えています。女子校からの参加も初めてありました。次回も,新しい学校にドンドン出てきていただきたい。われわれは,ものづくりに興味のある若い人を大事にしたいと,常に考えています。そのような若い人達の気持ちを引き上げる機会を提供することは,われわれの責務だと思います。これは,私だけではなく,われわれ全社員に共通する思いです。

 われわれは高専学生向けの活動とともに,「小さい頃からものづくりに興味を持ってもらいたい」という思いで,小学生向けの出前授業や,理科を楽しんでもらえるイベントも始めました。出前授業は,実験を通して理科の面白さを体験できる内容です。東北大学の先生に協力してもらい,2008年6~7月に宮城県の6カ所の小学校を訪れました。さらに,この出前授業をもっと多くの子供達が体験できるように,「楽しい理科のはなし」というイベントを9月に開催したところ,1000人を超える親子連れでにぎわいました。

――それは子供達からも反響がありそうな活動ですね。ところで,高専企画の話に戻りますが,学生達による展示や発表は本当に見事なものですね。

 われわれの展示ブースに来場者がかなり集まっているので,どこに集まっているのか見てみたら,実は学生さん達に提供したブースに集まっているんです。理由の一つは,実物展示にあるのでしょう。われわれはパネル展示なのですが,学生さん達は実物を展示しています。

 私も出展者だから分かるのですが,実物を出すというのは結構大変なんです。われわれも以前は実機を出していましたが,いざ本番になると動かなくなるなど,色々なことが起こるんです。学生さん達はそれをやっている。プレッシャーを楽しめているのでしょう。そして,自分達の研究していることが,社会とどれくらい距離があるのかを測れる良いチャンスでもあると思います。