B to B(Business to Business:企業間取引)分野の展示会で,高専(高等専門学校)の学生達が研究成果を発表する。そんな一風変わった企画が,半導体製造業界の展示会「セミコン・ジャパン」で昨年から開催されています。その名も「The高専@SEMICON」。今年も昨年に続き,12月2~4日に開催されました(展示の様子は後日連載する予定です。昨年の様子はこちらを参照ください)。

 この企画は,展示内容はあえて「半導体製造技術である必要は全くない」とし,日ごろの研究成果を学生達に披露してもらう形式になっています。いずれの研究成果も若者らしいアイデアにあふれており,固定観念にとらわれがちな大人の技術者達を驚かせていました。今回は高専だけでなく一般の高校,しかも女子校(県立水戸第二高校)から参加がありました。

 水戸第二高校の女子高生達は,自作の天体望遠鏡を展示していました。詳しくは今後掲載予定の連載で紹介しますが,展示していた天体望遠鏡は2台ありました。一つは,1800年ごろに活躍した天文学者ウィリアム・ハーシェルが当時製作していた,青銅鏡による反射望遠鏡を再現したもの。もう一つは,湾曲させたガラス板を反射鏡に使い,軽量化を図り移動させやすくした反射望遠鏡です。いずれも,月のクレーターなどの観測に成功しています。

 まず,高校生が「こんな天体望遠鏡を自分達で作れないか」と考え,実際に製作したこと自体に,私は舌を巻きました。高校生達やサポートした先生に話を聞くと,望遠鏡作りは困難の連続だったそうです。青銅鏡による反射望遠鏡でいえば,まず,ひたすら青銅鏡の研磨を繰り返すものの,いつまで経っても鏡面にならず,先の見えない日々が続きます。湾曲ガラス板による反射望遠鏡の製作では,ガラス板の外周部と中心付近で曲率が変わってしまい,焦点が一点に集まらない問題にとことん悩まされます。

 こうした困難を,粘り強さと斬新なアイデアによって少しずつ乗り越えていくのですが,女子校ですから,工作のための環境はお世辞にも十分とは言えず,何をやるにしても苦労がつきまといます。例えば,アルミ板を丸く切り抜いた時も,使えそうな道具は安物のボール盤しかなく,アルミ板に円を描き,その円に沿ってボール盤で穴をひたすら開けていって切り出したとのこと。一事が万事,この調子。気が遠くなりそうな作業の連続ですが,彼女達は,自作した望遠鏡で月のクレーターを観測するところまでこぎ着けます。

 何が,そこまで彼女たちを駆り立てるのか――。今回の企画に参加した二人の女子高生に,なぜ望遠鏡を作ろうと思ったのかそれぞれ聞いたところ,「星が好きだったから」という同じ答えが帰ってきました。天文関係に力を入れているということで地学部に入部したところ,先輩達が作った歴代の天体望遠鏡を見て感激し,「私も自作の望遠鏡で星を見たい」と思い,そこから望遠鏡作りに没頭し始めたとのことです。

 工作が得意かどうかは別にして,本当に自分が好きなこと,やりたいことだったから,途中で根を上げることなく,幾多の困難を乗り越えることができたのでしょう。同じようなことは,2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏や,液晶産業を立ち上げた元シャープ常務の枅川正也氏も指摘しています(関連記事1同2)。

 これは,会社の仕事でも同じです。上述の二人に限らず,これまでの私の取材先を見ても,自分が好きなこと,本当にやりたいことを大切にしている人は,充実した仕事人生を歩んでいます。その意味では,好きなことがたくさんあると,仕事人生をより楽しめると思います。実際にやってみて初めて「こういう仕事が好きだとは思ってもみなかった」と発見することも多いですから(関連記事3),会社に入ったら何事にもどん欲に取り組んでみることをオススメします。