つまり,発注から4カ月後に届いたテレビは腐っているということです。それなのに,「まだ腐っていない。少し値段を下げたら食える」と言って,値段を下げるわけです。そうして値段が下がっていく。3割安い腐った製品が出回ると,今度は他社の腐っていない製品の値段も下がってしまう。価格下落のサイクルに陥ることになり,とても全体最適とは言えません。

 テレビの組み立てという部分だけを見れば,賃金の安い部分だけはコスト削減になるですが,全体的なタイム・トゥ・マーケットのコストに比べたら微々たるものです。ただ,これは一般的には,なかなか理解されていない面であります。

 なお,中国についていえば,中国市場に商品を供給するための中国生産であるべきです。アウトソーシングのための中国進出は間違いです。

――この4~5年で,日本のものづくり企業は良くなりましたか,それとも悪くなりましたか?

 良くなったところと,悪くなったところがあります。中には,元気の良い会社もあります。ただ,激しい生産調整が行われ,中小企業の資金繰りが苦しくなったりしたのも事実です。

 「リーマン・ショック」に始まって,金融が破綻しました。それだけで済めば良かったのですが,これが実際の産業に影響しました。変調の兆しは2年前からくすぶっていたのですが,表に出てきたのは2008年秋からです。気がついたときには実体経済に影響が出てきました。需要が2008年9月からドンドン減ってきたので,在庫を減らさないといけなくなりました。その減らし方が,実際の需要減よりも増幅されたと思います。

 なぜ増幅されたかというと,サプライ・チェーンが完璧だと思われていた日本の優良大企業も,隠れたところにムダがあり,そのメタボリックな部分をこの短期間に一気にはき出したからです。すさまじい生産調整でした。イメージとしては,実需が20%減少したところで,50%の生産調整を実施したような感覚です。その結果,雇用まで波及し,中小企業の資金繰りも厳しくなりました。生産調整が20%くらいで止まっていれば我慢できたところも多いと思うのですが,こうなってしまったのは,日本の誇る「ジャスト・イン・タイム」も本当の意味では機能が不十分だったと言わざるを得ません。

――サプライ・チェーン以外については,いかがでしょうか。

 いくつか,脇が甘かったところ,良くなかったところがあると思います。

 例えば,評価制度です。近年,会社が株主重視の姿勢に偏ってしまって,株主への還元を重点に置いた評価制度を採用するところが増えてきました。そうした風潮の中で,社員の人事評価についても必要以上に成果主義に入れ込んだために,社員が全体最適を考えるよりも,評価者である上司の顔色をうかがって行動するようになってしまい,自由闊達な議論や仕事をできなくなったところもありました。ソニーでは以前,職能格を給料の目安としていました。これは,長い時間をかけて360度評価などをしながら決まるもので,「この人は誰が見ても課長」「この人は誰が見ても部長」と皆が納得できるものでした。なお,この職能格と並列に,プロジェクトでの立場と役割を示す「職位格」があり,社員はこの職位格に基づいて目的に沿った役割を果たしていました。実に見事な素晴らしい仕組みだったと思います。