当時の中国の中小・零細企業もおカネがなく、このままでは倒産しそうだというくらい、何も失うものがない企業が多かったようです。だから、「ネット取引はリスクがあるんじゃないか」と二の足を踏むこともなく、アリババのシステムに参加してみたら、一気に商売が広がって、アリババと共に成長できたわけです。

 翻って、日本の中小企業が電子商取引に消極的であることについて衛氏は、「日本の中小企業は苦しい所も多いけれど、まだ以前の中国ほど深刻的な状況ではなく、危機感がそこまでないからだ」と言っていました。さらに、「日本も(日経ビジネスが創刊した)40年前は起業家精神が旺盛だったのに、昨今のビジネスリーダーは腰が引けてしまっている」と続け、競争と協調でアジア市場を活性化していくためにも、日本は起業家精神を取り戻すべきだと、奮起を促したのです。

アジア活性化のために日本を叱咤激励

 衛CEOの言葉の端々には、「中国はアジアを活性化して世界経済を牽引していく覚悟と気概がある」という思いがにじみ出ていました。そして、「日本はどうなのか」と、やや挑発的なニュアンスも込めて、叱咤激励している感じでした。

 「我々は何のために競争してきたのか」という問題提起に対する衛CEOの明確な答えは最後までありませんでした。しかし、結果として米国が主導する世界経済のやや無理な膨張が今日の反動を招いていることを引き合いに、アジア人は他人のためではなくて、自分たちの市場で自分たちのために切磋琢磨しよう、というメッセージがひしひしと伝わってきたのです。

 アジア会議の基調講演では、伊藤忠商事の丹羽宇一郎会長が「人口減と大借金に見舞われている日本はこのままでは国家存亡の危機を迎える。アジア市場も内需であると真剣に考え、開拓していくしか生き残る道はない」と口をすっぱくして強調していました。

 口では簡単に「アジアの時代」と言いますが、我々は果たしてそれをどこまで真剣に、どこまで自分自身のこととして捉えているのでしょうか。自省も込めて、改めて深く考えさせられました。