企業にとってまさに変態が不可欠な時代であることは、産業界で「異種格闘技戦」が一段と増えていることから見ても明らかです。早稲田大学ビジネススクールの内田和成教授は著書である「異業種競争戦略~ビジネスモデルの破壊と創造」(日本経済新聞出版社)の中で、「異なる事業構造を持つ企業が、異なるルールで、同じ顧客や市場を奪い合う」時代であり、もはや同じ業界内でのこれまでの競争戦略は通じなくなっているため、「消費者を起点として事業連鎖、バリュー・チェーンを考えないといけない」と喝破しています。

買い手であり、世間でもある顧客

 企業が異種格闘技戦を勝ち抜き、変態し、生き残っていくためには、なぜ「消費者起点」とか「顧客本位」の徹底が欠かせないのでしょうか。この連載の1回目で、会社という存在は、「モノである株式」の部分と、「ヒトである会社資産(従業員や工場など)の部分を併せ持つ2層構造である、という東京大学の岩井克人教授の考え方を紹介しました。「会社は誰のものか」といった場合、モノである株式の部分は株主のものであり、ヒト(法人)である会社資産の部分は会社(経営者や従業員)のものである、ということになります。

 それでは、顧客はどう位置づけられるのでしょうか。「企業価値」ということを考えてみた場合、株主はそれを評価して株式を売買する立場にあり、経営者や従業員(会社)は自ら働くことで企業価値そのものを創出し、向上する立場にあります。これに対し、顧客はブランド・イメージなども含めて企業価値を評価する立場にあると同時に、企業の製品・サービスを実際に購入して売り上げに貢献することで企業価値の創出・向上にも加わっているのです。

 つまり、顧客は企業や製品のファンとして企業とともに歩む存在でもあり、社会の目として時には厳しい言動で企業に接する立場でもあるわけです。近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」という経営理念で言うなら、顧客は「買い手」であるとともに、「世間」でもあるということです。

 激動する大転換期、異種格闘技戦に臨んだり、企業そのものを変態させたりしていくには、顧客のニーズ=社会のニーズを十分見極めないと失敗しますし、良い評価を得て、顧客がファンになってくれるような企業価値を目指さなくてはなりません。もちろん、顧客のアンケートなどを単純に鵜呑みしてしまうと勘違いすることもありますが、社会であり、世間である顧客を意識することは従来にも増して重要な時代になっているのだと思います。会社を評価したり、選んだりする際、こんな視点から変化に対応できるかどうかという資質を見ることも重要でしょう。