前回、「ポスト・グローバリズム時代のキーワードの1つは『自立』なのかもしれません」と書きましたが、世界の中でも十分に自立し得る技術とローカルな文化を兼ね備えているのが、日本の伝統工芸だと思います。地域主権を目指し、地方経済を再生させていくためにも、独自の文化を包含した伝統工芸のモノづくりの素晴らしさを活かさない手はないでしょう。

 そんな視点で日本の伝統工芸とのコラボレーションを実現し、モノづくりの実力を世界の舞台で紹介する活動を進めている外国人がいます。ニューヨークなどを拠点に活動する世界的な現代美術家で、メディア・アーチストであるアレクサンダー・ゲルマン氏です。ゲルマン氏は技を極めた日本の伝統工芸に強い興味を持ち、同氏が石川県を訪問したのがきっかけとなり、同県の山中漆器職人とのコラボレーションが実現しました。

 山中漆器は、ろくろを使った木地挽きが特徴ですが、ゲルマン氏とのコラボレーションの対象となったのは、なんとチェス。漆の美しさや触感で華麗に昇華されたチェスの駒は宝石のように輝き、ロンドンやミラノでも紹介されました。ゲルマン氏は「国際的に通用する美にできた」と話しています。

 そのゲルマン氏の著書「ポスト・グローバル~ゲルマンが日本の伝統を未来の発展につながる」が近く、上梓されるとのこと。タイトルからすると、山中漆器とのコラボレーションのような伝統工芸の発展こそが、ポスト・グローバル時代では重要な位置づけになるという視点であるようです。

文化を体現するモノづくりに競争力

 もちろん日本人による活動でも、地方の伝統技術に創意工夫を加えることによって世界で戦える製品に仕立てる取り組みはいろいろあります。象徴的なものは、イタリアのデザイン会社であるピニンファリーナで日本人初のデザイン・ディレクターを務め、フェラーリやマセラッティなどのデザインを担当した工業デザイナー、奥山清行氏の取り組みでしょう。奥山氏は2006年に独立し、故郷である山形県の伝統工芸品のデザインに携わり、伝統産業の復活と世界への展開に注力しています。

 奥山氏が提唱してきたのは、「カロッツェリア型のモノづくり」と「新民芸運動」。カロッツェリアはイタリア語で車のボディ工房を意味し、その生産は部品・素材の調達からデザイン開発、組み立てまでを地域一体となって進める伝統的な方式です。山形ではこの方式で伝統工芸の高い技術力を結集し、地場産業である鋳物、木工、繊維などの新製品を開発。パリなどハードルの高い国際見本市に出展しているのです。

 生産のモノづくりが転換を迫られる中で、こうした地場の伝統技術は文化を体現しているため、中国などが追い上げてきても真似できるものではありません。地方がこの競争力のアドバンテージをもって自立し、新しいモノづくりの動きを広げていくことを、奥山氏は「新民芸運動」と位置づけているわけです。

 日経ビジネスでは2009年1月から「隠れた世界企業」というコラムをスタートし、世界に打って出ている元気な地方の中堅・中小企業を取り上げています。地方経済の厳しさは相変わらずですが、従来のモノづくりや消費のあり方が問われる時代には、文化という独自の付加価値を内包した地場産業の技術力を世界で活かす重要性がますます高まっています。