そして,そのような仕事を,自分がその会社に入って熱中してできるかどうか。それが決め手になるでしょう。私自身は,シャープが培ってきた技術と,今やろうとしている技術,目指している方向について,入社前から十分調べていました。だから,入社したら何が何でも半導体レーザーをやりたかったのです。入社試験でも「半導体レーザーをやらせてほしい」と言いました。

 私は学生のときに半導体レーザーを研究していたわけではありませんが,「これは面白い」と思っていたのです。当時ガス・レーザーはあったのですが,半導体レーザーはなかったので,「これに挑戦できたら幸せだ」と思いました。実際に挑戦させてくれて,本当に幸せでした。当時は米国のBell研究所が世界のトップを走っており,Bell研と競り合うように開発をしました。その後は,薄膜太陽電池,そして液晶パネルの開発に従事しました。

 話を戻します。その会社に入って,本当に自分が熱中できるかどうかを見極めることが一番重要です。給与や待遇条件は二の次でしょう。給与や待遇条件や人気で会社を選ぶ人もいますが,会社の業績や人気は変化するものです。不変的なものではありません。長く勤めることを前提に,あるいはその会社の中で何か一つの功績や実績をあげていくことを考えて就職するわけですから,自分が本当に楽しくその仕事に熱中できるかが大事です。長い会社人生の中では,苦しい場面に直面したり,他社よりも給料が安くなったりすることもあります。その時に「これに熱中できるからやりがいがあるんだ」と思えれば,乗り越えることができます。

――3回にわたり学生の皆さんにエールを送っていただきましたが,最後に日本の“ものづくり企業”へのメッセージをお願いします。

 資源の少ない日本という国が,技術立国で栄えていこうとするならば,「人」が一番の財産になります。人を育んでいくということが,本当に今できているかどうか。必ずしも十分とは言えないと思います。まず,人を養成していくことが大切です。

 それから,ものづくりの仕事の評価が「量」と「利益」だけに偏り過ぎているように見えます。「量」と「利益」は,いつの時代でも会社経営の根幹をなす要素ではありますが,技術と人の「質」の向上にもっと注力していかないと,グローバル競争の時代に日本が技術立国として繁栄を続けていくことは難しいでしょう。量から質への転換です。