前回に続き,学生時代の研究で仕事に生きたことや,学生時代に身に付けておくべきことについて,技術者として液晶パネル産業を立ち上げてきた元シャープ 常務取締役,フェロー(現FPDアソシエーツ代表)の枅川正也(ひじきがわ・まさや)氏に聞いた。


――学生時代の研究や勉強で,仕事に生きたことはありますか。

枅川正也氏
枅川 正也(ひじきがわ・まさや)氏
1969年,シャープ入社。1999年に同社 常務取締役 液晶開発本部長,2003年に同社フェローに就任。現在はFPDアソシエーツの代表を務める。

 私は大学で物理を専攻しましたが,直接的に仕事に生きたという経験はありません。ただ,基礎的な学問やものの考え方は,大いに役に立ちました。開発がうまくいかない原因を突き詰める上で,とても役立ちました。原因を探るのも,それを解決するのにも,様々なアプローチがありますが,そうした筋道を作る方法は,物理や物性を学ぶ中で培ってきました。

 例えば,「温度が上がると不良が発生する」という現象に直面したとします。その原因を探るときに,「半導体材料は金属材料と違い,温度が上がると抵抗が小さくなる」というような基本的な知識が頭の中にあるから,「多分こういうことがあって,それでこうなって,こうなるのではないか」という仮説が出てくるのです。それを,仲間と一緒に検討し,つぶしていくのです。

 高邁な知識ではなく,物性などの基礎的な知識が備わっていると,ものごとを探求していく筋道を立てられるようになります。頭の中の引き出しに,どれだけ本物の知識を入れておくかが大切です。本当に自分の身に付いた知識でないと,仕事に生かすことができないのです。

――学生時代に身に付けておくべき能力,スキルとは。

 学生のうちに身に付けておいてほしいと思うのは,第1に専門分野の基礎知識です。決して,試験で点数を取るための知識ではありません。ただ暗記してきたような知識は,会社でのものづくりに生かすことはできません。真の知識が必要です。

 第2に語学力です。これからは地球上全部のグローバルな競争になるのですから,語学力なしに競争を勝ち抜くことはできません。日本語だけではどうしようもない。語学力は非常に大事です。2カ国語でも3カ国語でも,話せる言葉は多いに越したことはありません。

 そして,3番目は体力です。