だが、どんなに優れた工夫も、競技の課題である録画が不可能になれば水泡に帰す。ぎりぎりまで意欲を見せた開発メンバーだったが、運命は冷酷だった。結局、修理は実らず、打ち上げ前に録画をあきらめる決断を下した。
「努力と結果は別物。生徒は、ものづくりの持つ厳しい側面を勉強したのではないでしょうか」
東工大付属の開発チームを率いた同校物理科実習助手の小菅京氏は、開発メンバーの苦渋の決断を振り返る。
夢の前に立ちはだかる自然の力
缶サット甲子園の参加校のほとんどは大会前日に能代入りした。宿舎で各校が目にしたのは、自分たちと同じように缶サットの修理を繰り返すライバルの姿。
自分たちだけじゃない――。
そう気を取り直すと同時に、各校は競い合うように最終調整に挑んだ。
前夜は、各チームともにほぼ徹夜に近い作業。だが、そこで同じ目標に向かう高校生たちの一体感が生まれたと各校の指導担当者は口をそろえる。
部品を融通し合ったり、分からないところを教えたり、おやつを交換したりと、敵味方を超えた仲間意識が芽生えた。開発メンバー3人のうち、2人が運動部所属だった東工大付属チームでは、大会後にメンバーがこんな感想を漏らしたという。
「他校の生徒は“敵”としてしか見てこなかったので、とても不思議だったし、うれしい体験だった」
それでも、昨日の友は今日の敵。大会当日は、各校の生徒がロケット打ち上げに目を輝かせ、缶サットの動きに一喜一憂する姿があった。
ただ、天候は最悪。まず前日まで断続的に降った雨で、会場の鉱さい堆積場はほぼ沼地状態。缶サットが無事に着地しても、水に濡れれば映像が消えてしまう可能性がある。各校は直前になって機体の防水対策に追われた。
もう一つは風。これが最大の難敵だった。
大会当日も肌寒く、小雨交じりの曇天。陸から日本海に向けて東からの風が強く吹いた。ロケットで打ち上げられ、上空で無事にパラシュートを開いた缶サットは、無常にもこの風に流された。一番手で打ち上げた慶應義塾高校の缶サットは、海岸沿いに並ぶ風力発電の巨大な風車の方向に落ちていった。
この様子を見て、パラシュートに穴を開けるなど、落下速度の調整を打ち上げ直前に決断したチームもある。だが、自然は冷徹。高校生たちの努力をあざ笑うかのように、打ち上げられた缶サットを次々と日本海に運んだ。
「失敗は残念だが、この自然との闘いが、室内で行うロボット・コンテストとは違う缶サット競技の難しさであり、魅力でもある」と、大会運営に携わる関係者は言う。