(前回から続く)

 「あれ? 動画が保存できない…」

 東京工業大学付属科学技術高校の缶サット開発メンバーの顔が、見る見るうちに青くなった。

直前まで調整が続く
大会当日は、ロケットに缶サットを搭載する直前まで機体の調整が続いた。写真は慶應義塾高校の開発チームの様子(写真:同校提供)
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 2008年8月25日。秋田県能代市にある朝内第二鉱さい堆積場で第1回の「缶サット甲子園」が開催された。空き缶で作った模擬的な人工衛星「缶サット」技術を高校生が競う、日本で初めての大会だ。当日は全国から8校が参加。ハイブリッド型ロケットでの缶サット打ち上げが順調に進んでいた。

 東工大付属の“事件”は、キャリアと呼ばれる収納機構に収められた缶サットをロケットに搭載する際に起きた。動画は撮影できる。だが、それまで問題なく動いていた録画機能が、なぜか動作しなくなったのだ。同校は、8校のトリを飾る最後の打ち上げ。時間が迫る中、打ち上げ場からブースに持ち帰った缶サットの修理に最後の望みを託す――。

カメラ制御の独自機構を打ち出す

 東工大付属の缶サットは、他校にない特徴があった。缶サットに内蔵したカメラの視野方向を制御する機構である。缶サット甲子園では、競技の課題として内蔵カメラでの撮影が課される。ロケットから放出された缶サットが降下する間に、地上に設けたターゲット(目印)を撮る時間の長さを競う。

独自の制御技術を導入
東工大付属チームは,キャリアと缶サットのカメラ制御で独自技術を打ち出した。写真は開発中の様子(写真:同校提供)
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 東工大付属の開発チームは当初、この課題を攻略するため、缶サットの飛行方向を制御する仕組みに取り組んだ。リモコンを使い、地上から機体を動かすことで、ターゲットをうまく捕捉する仕組みだ。だが、本部から支給されたカメラの形状に制限があり、機体制御の実現に難点が多いことが判明。途中で、カメラの視野方向の制御に方針を切り替えた。

 視野方向の変更には、3×2センチほどの小型ミラー(鏡)を使う。これをサーボモーターと組み合わせ、ミラーの角度をリモコン制御で変える。カメラで直接地上を撮影するのではなく、ミラーに映る像を撮影することで、進行方向に対し左右180度の視野変更を可能にし、カメラを常に地上のターゲット方向に向けておく狙いだ。

 制御の効果を上げるには、カメラだけでなく機体もなるべく一定の方向を向くようにする必要がある。このため、パラシュートの形状も工夫。前後非対称で直進性の高い形状を採用した。