大会では、缶サットが上空400メートルほどの高さから落下する。自分たちが開発したパラシュート形状や、キャリア解放、カメラ撮影などの技術の正しさを確認するには、実際にある程度の高度からの落下実験を行いたい。だが、それがかなわない環境の高校もある。

1日がかりのバルーン実験
桐生高校はバルーンを使った落下実験を実施した
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 例えば、東工大付属。都内の繁華街に近い同校は、東海道新幹線の線路脇に校舎がある。校庭はあっても、屋外で飛行実験はできない。そんな中、桐生高校がバルーン実験をするという情報を聞きつけ、開発途中の缶サットなどを持って遠征した。

 バルーンを使った落下実験は、午前中だけの予定が結局、1日がかりの作業となる。だが、実験での成果を超えて、実験場で他校のライバルと交流できたことは、疲れも吹き飛ぶ何ものにも代え難い経験だったようだ。

 実験後、木陰に集まり、実験の成果についてプレゼンテーションをした。秋田大から派遣された講師役の学生が「楽しかった人?」と問い掛けると、参加した高校生全員が迷わず手を挙げた。

 「秋田で待ってます」

 こう言い残した学生講師の言葉に、高校生たちの「缶サット甲子園」出場の実感は、それまで以上に強まった。

深夜まで続いた作業

 大会の日程は刻一刻と近づく。それでも、ほとんどの高校は缶サットが当初の目標通りに動かず、悩み続けた。

 キャリアを解放する糸を焼き切ることに成功した慶應高校では、その再現性のなさに再び頭を抱えていた。実験では、成功と失敗を繰り返す確実性のなさ。2日後には秋田に移動する。締め切りが迫る緊迫感の中、開発チームはようやく部品や回路図の誤りに気が付く。

 開発チームは、新たに正しい回路を組み直すという、ぎりぎりの判断を下した。通学の途中で秋葉原を通るメンバーが必要な部品を購入。ただ、部品は移動前日に無事入手できたものの、その日は工事で午後には校内が停電になることが決まっていた。

 それでも、何とか午前中に回路は完成。短時間で組み上げられたのは、開発期間中の経験による多くの失敗・成功の蓄積があったからだろう。とはいえ、まだ作業は残っている。回路を缶サットに組み込み、キャリアに収めなければならない。残った作業は、メンバーがそれぞれ自宅に持ち帰る。深夜まで、生徒たちの家の明かりが消えることはなかったようだ。

 競技前日の2008年8月24日。アマチュア・ロケットの聖地・能代に出場校が次々と集結した。

―― 次回へ続く ――